第六話 8
そして、また意識が遠のき、僕は再び、四角い白い部屋の真ん中に座っていた。その部屋に座っていると、親しい人たちがどこからともなく現れ喋りはじめた。優菜や祐樹や美帆や祐樹の父母や芳子や渉さんや福田の親父や早苗おばさんだった。
「どうしてこんなことに?」
「治ると思っていたのに!」
「もう一度元気な顔を見せてくれ!」
「本当にもう治らないの?」
「亮君、目を覚まして!」
「だめだ、心臓が止まっている」
「まだ、身体は温かいのに……」
「聞こえてるんだろ! 僕だよ! 返事をしろ!」
「亮ちゃん! だめ! 私を置いて行かないで!」
みんなは口々に何度も同じことを喋っている。僕はみんなのその声を聞き、みんなの顔を見ながら、「僕はどこへも行かない! ここにいる! ここにいるんだ!」と大声で叫んでいた。しかし、確かにみんなは僕の顔を見つめているのに、僕の姿が見えないかのように視線は素通りし、僕ではなく後ろの壁に焦点が合っているかのようだった。僕は立ち上がり、一人一人の目の前に立ち、「僕はここにいるんだ!」と訴え続けていた。それなのに、みんなは涙を流して、その場に立ち続けているのである。こんなに叫んでいるのに、僕の声は誰にも届いていない。このまま僕は、この人達と別れなければならないのかという絶望と孤独に打ちひしがれていた。すると、目の前に老婆が現れ、みんなの姿は消え去った。そして再び、祐樹と愛川哲也が現れて消え去り、大勢の人が現れて光の中に吸い込まれ、壁に映像が映り、老婆に罵倒されて目が覚めた。
僕が静かに目を開けると、いつもより心配そうな芳子の顔があった。
「よかった、目が覚めたのね。今日は、ずっと苦しそうな顔をしてたよ」
「そっか……」
「うん」
「俺、生きててよかったのかな……」
「当たり前じゃない! なんてこと言うのよ! 亮が生き返って、どれだけみんなが喜んだか知ってるでしょ?」
「う、うん……」
「疲れただろうから、今日はもうゆっくりしなさいね」
「うん」
そんな会話をして、僕はクリニックを後にした。




