第六話 3
坂元俊輔は、商店街の本郷不動産を訪れていた。彼はこの界隈で店を開こうと考えていた。本郷のおじさんは、坂元俊輔を連れて、太蔵爺ちゃんの駄菓子屋の隣りの空き店舗のシャッターを開けて、店の中を見せていた。この商店街の他の空き店舗も見たが、ここは元家具屋だけあって、店の中に入ってみると、外から見るよりも奥行きがあり、随分と広く感じられた。何軒もの不動産屋をまわってリサーチしたが、空き店舗が多いという不安要素もあったが、やっぱり交通の便や広さを考慮すると、この商店街が断トツで借り賃が格安なのだった。自分が子供の頃、良く通った駄菓子屋の隣りということもなんとなく気に入っていた。そして、坂元俊輔は、この店舗を仮押さえした。そして、太蔵爺ちゃんに挨拶に行った。
「隣りを借りることになったので、宜しくお願いします」
「なんだか見たことのある顔だな」
「いや、実は子供の頃、よくお世話になってた坂元俊輔です」
「ああ、あのガキか! お前も亮と同じで悪かったなぁ」
太蔵爺ちゃんは笑いながらそう言ったが、坂元俊輔は恐縮したのだった。
太蔵爺ちゃんに挨拶を終え、向こう隣りの文房具店にも挨拶すると、坂元俊輔は商店街の一番奥に位置する祐樹のカフェへ向かっていた。この商店街の住人になるのなら、子供の頃に迷惑を掛けた祐樹にも事前に挨拶するのが筋だろうと思ったからである。坂元俊輔は、「Café Hard Rock YUKI」のドアを開けた。すると、光を背負い、カウンターでのんちゃんに絵本を読み聞かせしている祐樹が「いらっしゃいませ!」と元気良く答えたが、続けて「お客さん、営業は午後六時からなんですよ。すみません、六時以降に来ていただけますか?」と言った。
しかし、のんちゃんの他に、カウンターにコーヒーを飲んでいる二人の女性が座っていた。フリルのいっぱいついた滅茶苦茶可愛いワンピースを着ている山田さんと真っ白なブラウスとスカートと靴とタイツと帽子だけは物凄くカラフルなツバ広のものを被った鈴木さんだった。二人は笑顔で何やら話し込んでいた。この二人には、坂元俊輔が全く目に入っていないらしい。そして、コーヒーを飲み終えると、二人共「お邪魔しました~」とすぐに出て行った。カフェを出て行く二人を横目に、坂元俊輔は、「あの、いや、俺、客じゃないんで」と言った。
「?」
「もしかして、君、桜木祐樹君?」
「はい、そうですけど……」
「あの、亮から聞いてない?」
「え?」
「俺、坂元俊輔だよ」
「坂元?」
「小学生の時の同級生の……」
「あーっ! 聞いた、聞いた! この間、教会で偶然会ったと言ってた! それで今日はまたなんで?」
「いや、この商店街のちょうど真ん中くらいに空き店舗があるだろ? あそこを借りようと思ってるんだよ。それで、今日は、祐樹に挨拶しなくちゃということで、来させて貰ったんだよ」
「僕にわざわざ挨拶だなんて、気を遣わなくていいのに」
「いや、祐樹には色々と迷惑を掛けたからな」
「迷惑だなんて、一体何年前の話をしてるんだよ」
「いやいや。これ、良かったら、みなさんで食べて」
そう言って坂元俊輔は、商店街で買った大判焼きを差し出したのだった。祐樹はそれを見て、「ありがとう! うちの婆ちゃんの好物だから渡してくるよ! あ、でも、良かったら、一緒に来ない?」と言って、遠慮する坂元俊輔を半ば無理矢理自宅スペースへ招き入れたのだった。そして、祐樹は、トメ婆ちゃんのおやつカゴに中に大判焼きを投入した。すると、トメ婆ちゃんは「百円均一!」とまた謎の言葉を大声で発し、大判焼きに食らい付いていた。坂元俊輔は、その光景に目を白黒させながら見入っていた。
「百円だって」
「?」
「百円均一に何か思い当たることはない?」
「はぁ?」
「うちの婆ちゃん、凄いんだよ。実を言うと、予言ができるんだよ。でも僕に百円均一は関係ないと思うから、きっと坂元君に関係があるんだと思ったんだけど」
祐樹がそう言うと、暫く坂元俊輔は考え込んでいたが、「わかんないなぁ……」と呟いた。
「商店街に店を開くそうだけど、なんの店にするつもり?」
「いや、実はまだ迷ってるんだ。金石と共同経営しようと思ってるんだけど、無難にコンビニにしようかなと思ってたんだよ。でも、この商店街には八百屋がないだろ? しかも近所にスーパーもないし……。だったら、百円均一の野菜を売る店もいいかなとはちらっと思ってはいたんだ。祖父ちゃんが、野菜を作ってるし、それを百円均一で売ったらいいってことなんだろうか」
「そ、それだよ、きっと! 百円均一の店をやれってことだよ! うちの親も八百屋が近くにあったらいいのにっていつもぼやいてるし、安い野菜を売ってくれたら、お客さんもそれ目当てでいっぱい来てくれるようになるだろうから、商店街の他の店のみんなもきっと大喜びだよ!」
「そ、そうか?」
「うん! 僕も出来ることは手伝わせてもらうし、是非とも宜しくお願いします!」
「いや、いや、こちらこそ」
興奮気味の祐樹とそんな会話をして、坂元俊輔は「また、来させて貰うよ」と言って、帰って行った。




