第六話 2
公園を出て、徒歩十分程の距離のところに恵愛教会がある。僕の足は自然と恵愛教会に向かっていた。今日こそは、ダビデの森の箱紛失の謎を優菜に問いただそうと思っていた。僕と優菜は、暫くの間、ダビデの森を散策すると、その後、教会前のベンチに二人で座った。
「優菜、訊きたいことがあるんだけど……」
「なに?」
「昔、子供の頃、この教会の裏の森に、俺と優菜と祐樹の三人で願いごとを書いた紙を入れた箱を埋めただろ?」
「え? ああ、そうだったね」
「もしかして、あの箱を掘り返したのは優菜なのか?」
僕は単刀直入に優菜に質問した。すると、一瞬、優菜の目が泳ぎ、答えるのを躊躇したかのように見えた。しかし、「掘り返してないよ」とすぐに答えた。
「あの箱がどうかしたの?」
「俺、この間、催眠療法を受けた時に、そのことを思い出して、今、ちょうど三人とも四十歳だから掘り返すなら今だと思って、楠の根元を掘り返してみたんだよ。でも、どれだけ捜しても箱は見つからなかった」
「ふーん」
「だから、祐樹か優菜が掘り返したんじゃないかと思って、先に祐樹に訊いてみたら、アイツ、埋めたことも忘れてたから、祐樹が掘り返したんじゃないことはすぐに分かった」
「それで、私が掘り返したと思ったの?」
「うん」
「でも、私も掘り返してないよ」
「そうなのか……」
「分解されて土に帰ったとか」
「それはないと思う。他のヤツの箱は見つかったんだから」
「他のヤツって?」
「ガキの頃に俺がよく喧嘩してた坂元俊輔って覚えてるか?」
「ああ、うん、覚えてるよ」
「この間、アイツとここで偶然出くわしたんだよ。しかもアイツも箱を埋めてて、ちょうど取り出しに来たところだったんだ」
「へぇー、そんな偶然があるんだねー」
「それで、アイツの埋めた箱は見つかったのに、俺らが埋めた箱は見つからなかったってわけ」
「そっか……」
「優菜はどんな願いごとを書いたんだよ?」
「ええっ、そんなこと、今ここで訊く?」
「うん、教えろよ」
「やだ! 教えない!」
「ケチだなぁ」
「亮ちゃんこそ、教えなさいよ」
「俺もやだ」
「なにそれ? だったら私も絶対教えない! 教えたら願いは叶わないしね!」
結局二人で押し問答して、二人とも答えないという事態に陥っていた。この分だと優菜は、この先もきっと教えてくれないだろう。しかし、優菜の願いごとは一体何だったのか、僕はやはり気になったのだった。
その後、二人で教会の礼拝堂の中に入って行った。すると、牧師の奥さんが小さな子供達を前に、絵本を読み聞かせていた。
「昔々、教会の前に、二人の天使の赤ちゃんが捨てられていました。一人は孤児院に引き取られ、一人はある家族の元に引き取られて行きました。神様は人間を深く愛していました。だから、人間に正しく幸せな人生を送らせるために、神様はこの子供達を見張りとしてこの世に使わしたのです」
子供達は、真剣にその話に聞き入っていた。
「うちの隣の家の聡君もいるみたい」
優菜がそっと僕に囁いた。
「聡君のお母さん、この間、病気で入院したの知ってる?」
「ああ、そうらしいね」
「聡君、今、十歳なんだって。ダビデの森の話をしてあげようかな」
「ああ、それいいじゃん、してあげなよ。少しは元気になるんじゃないの?」
「そうだね、そうしよう」
「でも、俺らの願いが叶ってたらもっと良かったけどな」
「それはそうだね。でも、私の願いは叶ってると思うんだよね」
「ええっ? 箱を掘り返してないのに?」
「うん」
「やっぱり、どんな願いだったのか教えろよ」
「やだ! 絶対教えない!」
そう言って、優菜は笑った。




