第一話 6
普段は学校があるから暇つぶしができて良かったが、休みの日はすることもないので、祐樹の家がある商店街をふらついていたら、どうしてだかやっぱり後ろを振り返ると、いつの間にか祐樹がくっ付いてきていた。
「お前、なんでいっつも俺の後をくっついてくるんだよ?」
「亮ちゃんを守るためだよ」
「はあっっっ??? 冗談はよせ! 守られてるのはお前だろ」
僕がそう言うと、祐樹は照れくさそうに笑った。しかし、もうすぐ昼飯の時間である。腹が空き、急にお腹がぎゅるるると音を立てて鳴った。しかもどこからか食べ物の良い匂いが漂ってくる。ふと気付くとすぐ斜め前の店で、揚げたてのコロッケを売っていた。僕は、その店に近付き、ガラスのショーケースのすぐ上に置いてあったコロッケを二つ手で掴むと一つを祐樹に「ほらよ」と手渡し、僕がむしゃむしゃ食べ始めると祐樹も僕にならった。
「揚げたてのコロッケはうまいだろ?」
「うん!」
などと二人で会話しながら普通に歩いていたのだが、店の奥に居た店主が僕たちに気付き「こらっ、小僧っ! また、お前か! 待てーっ!」と叫びながら飛び出てきた。
僕は慌てて祐樹の手を引っ張って逃げたのだが、祐樹は「えーーーーーっっっっっ!!! 今のコロッケって盗んだのーーーーーっっっっっ!?」と驚いていた。
「当たり前じゃないか! お前、何見てたんだよ!」
「えーーーーーっっっっっ!?」
僕がそう言うと、祐樹はそのうちオイオイ泣き出し、僕から離れて観念して店の親父に捕まるのかと思ったのに、洟を垂らして泣きながら、そのまま僕の後ろを必死で走って逃げ続けたのであった。
二人で公園まで逃げて、公園の遊具の土管の中に逃げ込んだ。「ほとぼりが冷めるまでここにいよう」と僕は祐樹に言うと、彼も「うん」と頷いたが、ほとぼりが冷めるって一体いつなんだろう?
二人で土管の中で大人しくしていたが、ふと祐樹のほうを振り返ると、祐樹は額に汗をかき、胸に手を当て苦しそうにしている。
「おい! お前、大丈夫か!」
「……大丈夫……暫らくじっとしてたら治るから」
「いつもこうなるのか?」
「うん、だからあんまり激しい運動はできないけど」
そうか、だから祐樹は、体育の授業は大抵見学してるんだなと思った。
二人で夕方まで粘ったが、昼飯がコロッケ一個だったし、流石に空腹に耐えきれなくなって、またもや祐樹はシクシクと泣き始めた。僕は「男が泣くな!」と言ったが、同時に「祐樹ー!」とどこかで祐樹を呼ぶ声がした。土管から出て声の主を確かめると、祐樹の母の桜木京子だった。祐樹は母の姿を確認すると飛びついて泣いた。その姿を見て、なんでだか僕も胸が苦しくなった。すると、祐樹の母は、僕まで引き寄せて頭を撫でてくれていた。
「お腹が空いたでしょ? 早く家に帰ろう。野崎君も一緒においで」
祐樹の母は優しかった。その優しさに触れて僕も祐樹と一緒に泣いていた。