第一話 5
そんなことがあってから、僕も愛川哲也や子分の坂元俊輔たちを特に警戒するようになった。桜木祐樹は、あんなに大人しいのに、どうしてだか愛川哲也は相変わらず坂元俊輔や金石裕太郎、山本拓朗を伴い、僕と同様、祐樹をつけ狙っているようだった。
だからだろうか、休み時間に校庭で遊んでいても、下校中でも、ふと振り返ったら、なんでだか祐樹が僕の十歩くらい後ろを付いてくるようになった。最初は気のせいかなと思っていたのだが、十歩から九歩八歩と毎日徐々に距離が縮まっていくので気のせいではないことに気付き、「お前、ウザいから消えろよ!」と叫んで追っ払っていたのだが、そのうちめんどくさくなって、そのままほったらかすようになったら、祐樹は僕の後ろをぴったりくっ付いて歩くようになった。そしたら、それに気付いた優菜が、下校中の僕たちの後ろに続くようになった。そして、最後には三人横並びで帰るのが日課になった。
三人とも家が近いということで帰る方向が同じだから、自然な流れと言えば流れだったのかもしれない。僕と優菜はいつも商店街を抜けて帰宅していたが、祐樹の家は、商店街の端に位置するジュエリー工房「SAKURAGI」で、彼の両親二人が切り盛りしていた。
二人と仲良くなったのをきっかけに、少しは僕の素行も良くなるのではないかと大人達は期待したようだが、僕は、相変わらず愛川と喧嘩をし続け、しょっちゅう学校から逃亡する騒ぎを起こしていた。
一体何が気に食わなかったのだろうと自分でも思うのだが、突然わき起こる衝動をどうにも抑えられないのである。当時の僕は、人間が嫌いだったんだろうと思う。人間なんて結局自分が一番大事だと思っているはず、と信じて疑わなかった。大人に対しては特にそうだった。だから、母は弟を手放したのだろうと思っていた。あの頃、信用していた大人なんて一人もいなかった。