第四話 11
光を背負った祐樹は、トメ婆ちゃんに言われたように、今日は、保険外交員の米田という女性でなく、タオルケットを被った山田さんの後を追っていた。山田さんは、芳子のクリニックでカウンセリング終えた後、カフェでコーヒーを飲み、やっぱりタオルケットを被ったまま、商店街を歩いて帰っていた。途中、誰かとぶつかるんじゃないかと冷や冷やしながら後ろから尾行していたが、よくよく観察すると、タオルケットには、外が見えるように、ちょうど良い大きさの穴が二つ開いていた。カフェでコーヒーを飲んでいる時は、穴が開いていないことを確認していたので、外を歩く時は目の位置に穴が来るように、タオルケットをくるりと回転させているようだった。祐樹は、そうか、それですんなり歩けるんだなと思った。しかし、山田さんは余程警戒心の強い人間なんだと思う。だって、カフェでコーヒーを飲む時は、カウンター越しにいる僕と目を合わせなくて済むように、穴が開いていないほうを前にしてタオルケットを被っているんだから。しかし、いくらなんでも、僕の容姿は認識しているだろうから、山田さんに見付からないよう隠れながら尾行しなければと思っていた。だから、一定の距離を取りながら、付かず離れずの体勢を取っていた。
山田さんは、商店街を抜けると大通りに出て、色んな人に奇異の目で見られたり、振り返られたりしながら、通りをそのまま真っ直ぐ歩いていた。そして、たまに足を止めて、若い女の子向けの洋服屋の前でウィンドウに張り付いて中を覗いたり、可愛い小物ばかりを売っている雑貨屋の前で足を止めたりしていた。タオルケットを被ったままの山田さんがそんなことをするものだから、店の中の人は、十中八九驚きの目で山田さんを見返す事態に陥っていた。しかし、祐樹はなんだかほんとに、複雑な気持ちになっていた。これじゃあ、まるで山田さんは、不審者のキモイおっさんにしか見えない。いや、実際、山田さんは、キモイおっさんそのものなのかもしれないのだが……。
それから、また山田さんは、右へ曲がったり左へ曲がったりして、帰路を急いでいたが、ある路地を曲がった途端、思わぬ人物に遭遇して驚いていた。タオルケットがずれるくらいだったから、半端ない驚き様だったのだろう。その思わぬ人物とは、この間、祐樹が追いかけていた保険外交員の米田という女性だった。ところが、この米田という女性は、偶然山田さんと遭遇したのではなく、どうやら山田さんを待ち伏せしていたらしい。しかし、この米田、実はとんでもない女だった。
「やっと、捕まえたっ! 今度こそ、本性を暴いてやるっ! 私を騙そうったって、そうはいかないんだからっ!」
そう叫んでいた。そして、米田は山田さんのタオルケットを引き剥がそうと手を伸ばした。しかし、山田さんも案外すばしっこい。ひらりと身をかわし、タオルケットを被ったまま、全速力で走って逃げている。祐樹も山田さんから離されまいと、光を背負ったまま、米田の後ろから山田さんを追っていた。米田は山田さんから離されないように頑張っていたが、保険外交員の米田は、スカートスーツにヒールという恰好だった。そして、走る途中、ヒールが折れて転ぶという惨事が起きてしまった。祐樹はそれを見て、気の毒とは思いながらもほっと胸をなでおろしていて、早く逃げろ!山田さん!と心の中で叫んでいた。そして、何故だか、祐樹は転んだ米田を飛び越し、逃げる山田さんをそのまま追い続けていた。胸が少し痛い。息も切れて来た。もう追いかけるのは無理かもしれないと思ったその時、山田さんも途中、力尽きたのか、足が縺れて転びかけ、一度は持ち直したかと思われたが、やっぱり転んでしまった。そして、その瞬間、タオルケットがはらりと剥がれ落ち、山田さんの正体が明らかになった。その瞬間、祐樹は「うそぉおおおーーーーーっっっっっっ!!!!!」と叫んでいた。
山田さんは、キモいおっさんではなく、髪の長い女性だった!
しかも、かなり若くて可愛い女の子だった!
祐樹は、山田さんの全貌を目の当たりにし、呆然とその場に立ちつくしていた。




