第一話 4
小学一年の二学期が始まったばかりのある日の昼休み、校庭の砂場で事件が起こっていた。愛川哲也が、クラス一の痩せっぽちの桜木祐樹にパンチを食らわしていた。祐樹も負けじとやり返していたが身体の大きな愛川に勝つわけがない。子分の坂元俊輔、金石裕太郎、山本拓朗も傍に立ってニヤニヤしながら見ている。すると、それをたまたま傍にいて目撃していた優菜が、烈火のごとく怒り始めた。
僕はびっくりした。優菜が怒るのを初めて見たからだった。彼女のすぐ横に杖をついて立っていた美帆も優菜の突然の剣幕になす術もなく呆然としていた。優菜は「桜木君に謝りなさい!」と愛川哲也に食ってかかった。僕は、遠巻きにその喧嘩の様子を見ていたが全然埒が明かなかった。やがて愛川哲也が優菜に砂を思いっきり投げつけ、それでも怯むことなく「桜木君に謝りなさい!」と何度も叫んでいる小柄な優菜に、大柄な愛川哲也が掴みかかろうとしていた。傍にいる美帆は「やめてー!」と泣きながら叫び、桜木祐樹は腰を抜かして、その場にへたり込んでいた。
僕は思わず飛んで行って、優菜の前に立ちふさがり、渾身の力を込めて愛川哲也を砂場に投げ飛ばした。そして、砂場に倒れ込んだ彼の顔にパンチを食らわしていた。しかし、向こうも手強い。気が付けば、組んず解れつの血まみれの喧嘩になっていた。そのうち校庭で遊んでいた生徒全員が僕たちを取り囲み、そして高学年の男子生徒数人と、通報によって職員室から飛んで来た教頭と男性教師によって取り押さえられたのだった。