第四話 1
昨日の夜、「緊急の仕事が入って、徹夜の仕事になるから家に帰れない」と優菜からラインで連絡が入り、僕は一人きりの家で悶々としていた。優菜が帰宅したら、どうしてダビデの森の箱が無くなっているのか訊いてみようと思っていたからだった。電話やラインで訊いてもいいことだとは思うが、話がなんだかややこしくなりそうな予感がして、何故だか優菜に訊けないのだった。布団に入ったが、まんじりともせず夜を明かし、朝食も採らずに工房へ向かった。
昼休みになり、僕は祐樹のカフェで、祐樹の作ったガパオライスとやらを二人でがっついていた。カウンターの僕の隣りの席では、顔を真っ白に塗った白装束の中年女性の芳子の患者、鈴木さんがコーヒーを飲んでいた。祐樹は鈴木さんにもガパオライスを提供しようとしたが、鈴木さんはガパオライスに入っているバジルが苦手らしく、彼女に丁重にお断りされたのだった。そして、鈴木さんはコーヒーを飲み終えると、「さようなら~」と歌うように挨拶をして去って行った。しかし、この間、僕が見た鈴木さんと今日の鈴木さんはどこかが違っている。何が違うんだろう?と考えていたら、今日の鈴木さんは髪に赤いハイビスカスの造花を差していたことを思い出した。いつも上から下まで真っ白けの白装束なのに、わざわざ目立つように赤い花?と一瞬思ったのだが、祐樹にそのことを問うと「病気が少し改善したんじゃないかな」と笑顔で言ったので、僕もなんだか気分的に明るくなった。そして、祐樹は「それで今日は何? 何の話が僕にあるわけ?」と僕に切り出した。
「お前が盗んだのか?」
「?」
「お前が盗んだのかと聞いている」
「訳が分かんない。ちゃんと最初から説明してよ」
「ダビデの森の箱だ」
「はぁ、それで?」
「だから、お前が盗んだのか?」
「ダビデの森の箱って?」
「十歳の時に埋めた箱だ」
「はぁ?」
いつまで経っても、祐樹がボケをかますので、昨日受けた催眠療法の時に、トメ婆ちゃんのダビデの森の願いが叶っていたことが分かったので、そういえば自分も今ちょうど四十歳だから、ダビデの森の楠の根元を掘り返しに行ったが箱が見つからなかった、ということを僕はイライラしながら祐樹にまくし立てていた。
「あー、そうだった、そうだった! 思い出したよ! そういえば、十歳の時にみんなで埋めたよね。そっか、あれからちょうど三十年経ったから掘り返しに行ったんだ! 亮ちゃん、よく覚えてたね!」
祐樹がにっこりしながらそう言ったので、余計に腹が立ったのだが、コイツが掘り返したんじゃないんだなということはすぐに分かった。
「覚えてたというより、催眠療法で思い出しただけなんだけどな」
「でも、僕は知らないよ。埋めたことも忘れてたんだから。もしかしたら、優菜が掘り返したのかな? でもそれだったら、僕に一言あってもいいと思うんだけどな……。優菜は何にも言ってなかったよ」
「そうか……」
「うん」
「だったら、その辺のガキが掘り返したのかもしれないな」
「そうかもしれないね」
祐樹と昼休みにそんなやり取りをした。




