第三話 12
しかし、そうは言ったものの、大急ぎで今の現場の問題を解決し、部下たちに指示をして、次の現場に行かねばならない。優菜は美帆からタブレットに送られてきた次の仕事の資料とにらめっこし、テレビ局の林光弘という担当者に連絡を取った。もう午前一時を過ぎていたのに、林光弘はすぐに電話に出た。そして、彼は、急遽仕事を依頼することになって大変申し訳ないと謝っていた。
優菜は市場が開くと大量の花を購入し、トラックを運転してテレビ局に向かった。そして、その日の収録が始まる午前九時には無事仕事を終えて、ほっと一息吐いていた。しかし、また、元の現場にもこれから向かわなければならない。帰宅するのはおそらく夕方になるだろうなと思っていた。
そんなことを考えながら、スタジオを出ようとすると、林光弘に声を掛けられ、丁重にお礼を言われた。そして、林光弘の横には番組のプロデューサーと思われる男性が立っていた。彼も今回の窮地を知り、しかも優菜が手掛けたフラワーアレンジメントが気に入ったらしく、是非とも自分も直接お礼が言いたいとのことらしい。優菜もそんな風に言われて悪い気はしなかった。うちの会社は小さな会社だし、これから契約が増える可能性はいくらでもあっていい。だから、プロデューサーの顔を見ながら思いっきり愛想よく笑っていたのだが、その男性も優菜の顔を見ながら、妙にいつまでもニコニコしている。なんでだろう?と思って、その男性の顔を眺めていたら、「優菜、元気だったか?」と突然呼び捨てで下の名前を呼ばれた。
「?」
「生島優菜さんだろ? 俺だよ俺!」
「え、だれ?」
「分かんないのかよ。俺はすぐに分かったんだけどなぁ」
そう言われて、その男性の顔をじーっと眺めていたら、「菊池隼人だよ」と彼がポツリと呟いた。
「菊池? えーっ、菊池ってもしかして、中学の同級生で神戸に引っ越していった菊池君!?」
「そうだよ! その菊池だよ!」
「えーっ、ほんとうっ!?」
「うん」
優菜は、菊池隼人の顔を凝視しながら、トメ婆ちゃんに言われた言葉を思い出していた。
『テレビ局の仕事は断るな!』
トメ婆ちゃんはやっぱり凄かった、と優菜は驚愕したのだった。




