第三話 11
優菜は、美帆の指示に従い、明日から都内で大体的に始まる花をテーマにしたイベントの生花の責任者として忙しく働いていた。今回のイベントは、会社の存亡を賭けた一大イベントだった。来場者はおそらく十万人は下らないだろう。このイベントが成功すれば、次の仕事に繋がる。勿論、自分の評価も上がる。だから、優菜は神経を張り詰めて仕事に勤しんでいた。しかし、生きている花を相手に仕事をするのは容易ではない。少しでも新鮮な花を調達しなければならないし、根付きの花でも展示している環境によっては、すぐに枯れてしまう場合もある。それくらい温度や湿度の調節は、気を配らなければならないのである。そのことを部下に対しても、毎日口を酸っぱくして指示しているはずなのに、人手も時間も足りず疲れているせいなのか、今朝、展示したばかりの蘭の花が枯れ始めていた。しかもメインスペースに展示されている花だった。やっぱり、蘭は繊細な花だから、押し切られたとはいえ、主催者側に違う花を提案すれば良かったと後悔していた。切り花にしていたら、手間は掛かるが、枯れた花だけ毎日差し替えが出来て良かったのにと思う。しかし、明日からイベントが始まるのだから、もう後には引けない。ここは腹を括って挑まねばと思っていたその時、スマホが鳴った。誰だろう、こんな時間に?と思って画面を見たら、美帆だった。こんな遅い時間に、美帆が直接電話してくるなんて、なんだか悪い予感がするなと思いながら優菜は電話に出た。
「はい、野崎です」
「もしもし、優菜! あのね、ちょっと大変なの!」
「えー、なに? なんか嫌な感じ……」
「あのね、優菜が今大変なのは、重々承知してるんだけど、私の一生のお願いを聞いて欲しいの」
「一生のお願い? この間もそう言ったわね」
「そうだったっけ?」
「そうよ」
「じゃあ、えっと……唯一無二の大親友のお願いを聞いてもらえるかな」
「もう美帆には、ほんとに敵わないわ」
「そうでしょう」
そう言いながら、美帆は笑っている。
「それで、なに? お願いって?」
「あのね、そこの会場のすぐ近くに、テレビ局があるでしょ?」
「うん」
「そこの仕事をして欲しいのよ」
「えー、今からテレビ局の仕事をするの? もしかしてスタジオ全部、花で埋めるとか?」
「うん、そのまさか。テレビ局が頼んでいた別の業者が、一日間違えてたらしくて、しかもその業者、明日はどうしても断れない仕事が入ってるんだって」
「やめてよ、そんな仕事……。いくらなんだって今の時間、花を手配するなんて無理でしょ」
「あのー、だから、三時間後に市場が開くでしょ……」
優菜はその言葉を聞いて、はぁぁぁぁぁと深く大きくため息を吐いた。要するに徹夜の仕事をしろということらしい。
「そうね、明日、朝一に会社に大口のお客さんが来て契約すると言ってたわよね。うちみたいな小さな会社の契約に社長がいないなんてあり得ないものね」
「うん、そう。それに私は役立たずだもの」
「そんなことないわよ」
「頼める人が優菜しかいないの。だから、お願い」
「もう、分かったわよ。この埋め合わせは絶対して貰うからね」
「うん、分かった分かった。絶対埋め合わせする。じゃあ、お願いね。優菜ちゃん、最高!」
美帆がそう言うと、電話は切れた。




