第三話 10
それから、残していた仕事を仕上げると、僕は急いで自宅へ帰り、倉庫から探してきたスコップ片手にダビデの森へ向かっていた。芳子のクリニックで催眠療法を受けていた時のトメ婆ちゃんとの会話で、そういえば、今僕は十七歳ではなく、ちょうど四十歳のはずだということを思い出していたのである。祐樹も優菜も四十歳だった。ダビデの森に埋めたものを掘り起こすのは今しかないと思っていた。
ダビデの森に着いた時、もうすでに日は暮れかかっていて、森には鬱蒼とした闇が広がりつつあった。僕は森に入るのを一瞬、躊躇していた。しかし、やはり自分の願いは成就したい。それは優菜や祐樹だって同じだろう。だから、僕は暗闇の中を懐中電灯を持って進んでいった。三十年前、十歳の時に見た楠の大木は、すぐに見つかった。この木に間違いないと思い、僕は根元をスコップで掘り起こし始めた。小一時間くらい掘っただろうか? それなのに箱は見つからない。僕は次第に焦り始めた。埋めたのは木の根元の西側だと思っていたが、気付けば木の根元の周辺全部を掘り起こしていた。それなのに、やはり埋めたはずの箱は見つからなかった。僕は呆然とその場で立ちつくしていた。そして、帰宅しようとダビデの森を出た時、携帯が鳴った。角田圭吾からだった。
「もしもし、今いいっすか?」
「ああ」
僕は、内心ドキドキしていた。声の主は、やはりこの間、自宅前に突然現れた男のようだった。
「アイツの親分が分かりました。随分大物でびっくりしましたよ」
「大物?」
「鈴木万太郎ですよ」
「えっ? 鈴木万太郎って、あの山下組のかっ?」
「そうですよ! 日本一のヤクザの組長です! でも、今は引退して、地上げ屋をやってるらしいですけどね。だから、アイツが商店街をウロウロしてるんですよ」
「そうか……。ところで、アイツって誰なんだ?」
「はぁ? なに言ってんですか! 愛川哲也に決まってるでしょ」
「えっ! もしかしてサングラスをかけた黒づくめの男か?」
「そうですよ! ったく、野崎さん、入院してから、なんかおかしいっすよ。来週はきちんと例の場所に来てくださいね。昨日、俺、一人でずっと待ってたんですから」
「例の場所って?」
「アジトですよ、アジト!」
「おお、そうか」
「頼みますよ、もう……。絶対来てくださいよ。せっかく立てた計画が台無しになるじゃないですか」
角田圭吾はそう言って電話を切ったが、僕はそう言われても訳が分からず、一人呆然々としていた。




