第三話 8
それからまた意識が飛び、今度は目の前に、トメ婆ちゃんが現れた。高校生の僕は、トメ婆ちゃんと縁側に座って話をしていた。
「太蔵とそんな話をしてたのかい?」
「うん。でも爺ちゃんにそんな過去があっただなんて、ちょっとびっくりした……」
「まぁね、太蔵も色々あったさ」
「ううん。トメ婆ちゃんもな」
「そうだよ。生まれたばかりの子供を抱えて大変だったさ」
「そうだな……」
「太蔵はね、虎次郎が死んでから行方をくらましてたんだよ。でもさ、ちょうど四十歳の時に、アイツがふらっと戻って来たことがあって、アタシが説得して商店街に戻って来てもらったんだよ。アイツのお母さんも病気で倒れて、駄菓子屋をやる人間もいなかったしね」
「そうなんだ」
「でもな、アイツの願いは叶ってるんだよ」
「願い?」
「ダビデの森の秘密だよ」
「?」
「忘れたのかい? 優菜は、亮と祐樹と三人で埋めたと言ってたよ」
「えー? いつの話?」
「十歳だよ、十歳!」
「十歳?」
「三十年後に忘れずに掘り起こしたら、願いが叶うってやつだよ」
「あーっ! 思い出したっ!」
「太蔵はその願いが叶ってるんだよ」
「え、もしかして、トメ婆ちゃんて太蔵爺ちゃんと同い年なのかよ?」
「そうだよ」
「へー、そうだったんだ。それで、太蔵爺ちゃんの願いは何だったんだよ?」
「幸せになること」
「え?」
「太蔵は、得たものも大きかったけど、失うものも大きかった。結局残ったのは、駄菓子屋だけだった。でも、なんで儲かりもしない駄菓子屋を母親が続けてきたのか、その理由が分かったんじゃないかね。この貧乏な商店街から飛び出したら幸せになるだろうと思って飛び出したのに、自分が探してた幸せはここにあったってことさ」
「駄菓子屋が幸せ?」
「そうさ。今でも亮にそっくりのやんちゃなガキが毎日来てるからね。それが生きる張り合いになってるんだろうよ」
「そんなものなのかね」
「そんなもんなんだよ」
「それはそうと、ダビデの森のもう一人は誰なんだよ?」
「もう一人は、虎次郎」
「虎次郎さんの願いは叶ったの?」
「叶ってるよ。虎次郎の願いはアタシと結婚することだったからね。虎次郎の場合は、早死にしたし、箱を開ける前に叶ってたから、箱を埋めた意味はなかったかもしれないけど」
「そうか、そういうことになるな。じゃあ、トメ婆ちゃんの願いは?」
「アタシの願いは、一生困らずに甘いお菓子が食べられますように、っていう願い」
僕はそれを聞いて爆笑した。
「なんか、女より男のほうがロマンティストだなぁ」
「それはそうかもしれんねぇ。でもな、幸せになりたかったのは、子供の頃に親父を亡くした太蔵だけじゃないんだよ。虎次郎もアタシも戦争で兄さんを亡くしてるからね。みんな幸せになれて良かったよ」
そう言ってトメ婆ちゃんは笑った。




