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トワイライト 第三版  作者: 早瀬 薫
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第一話 3

 僕が生まれたその日から三年の月日が経ち、母は、弟を産んだ。母は相変わらずまだ少女だったが、働きながらぼろアパートで僕たち二人を育ててくれていた。しかし、無理がたたったのか体を壊し寝込むことが多くなり、児童福祉司のすすめに従って、母はまだ手の掛かる弟を養子に出した。当時、僕は六歳だったから彼のことをおぼろげながらも覚えているが、まだ三歳だった弟は、僕のことなどもう忘れているだろう。

 その頃からだろうか、母は夜働きに出て、家にいなくなった。だから、朝僕が起きると母が外から帰宅し、朝から僕を怒鳴りちらした。「もっと良い子にしろ」、「迷惑をかけるな」、「大人しくしていろ」。しかし、母からそう叱られる度に、僕はもっと暴れん坊になり、手に負えないヤツになっていった。


 アパートの隣りには空き地があったのだが、その隣りの空き地に、新しい家が建てられ、生島優菜という僕と同い年の女の子の一家が引っ越して来た。優菜の家はさほど大きな家ではなく、ごく一般的な大きさの家だったが、一人っ子の優菜の家族は、いつ見ても親子三人仲が良く、絵に描いたような幸せな家庭のように僕には見えた。

 母親の趣味なのか、優菜はいつも可愛らしいフリルの付いたワンピースを着ていた。その優菜の風貌が、彼女をどこかの国のお姫様のように見せた。だからだろうか、いつの間にか、僕にとって彼女は、憧れても決して手の届かない幸せの象徴のような存在になっていた。


 僕の方から優菜に声を掛けることはなく、いつも陰からそっと彼女のことを観察するだけの日々が続いた。優菜は、公園で知り合った同い年の平田美帆という女の子と仲良くなった。美帆は足が不自由らしく、松葉杖をついていた。優菜は美帆とブランコに乗って、いつも笑っていた。僕はたまに、彼女達の後を付け、色とりどりの花が咲き乱れる美帆の家の庭で、二人が仲良くお茶しているのを羨ましそうに眺めていた。優菜に優菜や美帆は、僕のやっていることに気付いてはいなかったのだろうが、可愛い優菜や美帆に相手にして貰いたいがために、優菜のスカートを捲ったり、美帆の髪の毛を引っぱったりするクソガキを、僕は彼女達が見ていないところでボコボコにしていた。時には首を絞めて「いいか、またあの子達に手を出したら、今度はタダではおかないぞ!」と脅していた。

 そのクソガキの中に、愛川哲也という悪ガキがいて、愛川は僕を見付けると意味もなく殴りかかって来た。とにかく、愛川は僕の顔を見ただけでムカつくらしく、いつも僕は愛川と取っ組み合いの喧嘩をするようになった。

 そして、もう一人、僕と同じように優菜と美帆を陰からそっと眺めている桜木祐樹というヤツがいた。そいつも僕と同い年らしかったが、痩せっぽちで随分ひ弱なヤツだった。この祐樹というヤツは、僕が愛川と喧嘩する度に、いつもどこからか現れ、愛川に向かって石や砂を投げつけていた。何故だか、祐樹は僕の味方らしかった。


 小学校に上がってからも、素行は良くなるどころか益々酷くなり、クラスの同級生になった愛川と相変わらず毎日喧嘩をしていた。坂元俊輔、金石裕太郎、山本拓朗という悪ガキ三人がいつの間にか愛川の子分になって、四人でいつも僕に喧嘩を売ってくるようになった。五人でいつも殴り合いの喧嘩をしているので、母は毎日担任から苦情の電話を受け、僕は毎日母に怒鳴られ、母に怒鳴られると大人しくなるどころか、ますます乱暴になるという悪循環を繰り返した。イライラは、朝起きた時から夜寝るまで続く。朝、学校へ登校した途端、愛川達と喧嘩をし、トラブルを起こしたが、徒党を組んで悪さを働くという訳でもなく、常に一匹狼だった。いや、陰から祐樹がいつも僕の後を付けてはいたが……。


 そして、僕は、片時もじっとしていられなかった。酷い時は、授業中にもかかわらず、廊下に面した教室の窓を突然ガラッと開け放すと、そこから窓枠を乗り越えて脱走した。僕が平気でそんなことをするものだから、図に乗って他の腕白な連中も僕を真似た。僕のクラスは学級崩壊し、担任の二十代の若い女性教師、瀬戸浩美は、ほとほと困り果てていた。


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