第三話 3
そんな話をしているうちに工房に辿り着いてしまい、どうしても祐樹に話の続きを訊きたかった僕は、親父さんに許可を取って十五分だけ昼休みを延長してもらった。そして、カフェのカウンターを挟んで祐樹と睨み合っていた。のんちゃんは、カウンターに座って絵本を眺め、大はカフェの隅っこに置いてあるゆりかごの中ですやすや寝ていた。そして僕は、光を起こさないように声を殺しながら、「アイツは一体誰なんだよ?」と祐樹を問いただしていた。
「多分、亮ちゃんが一番嫌いな男」
「そうか……」と言って考えていたが、だんだん腹が立って来て「そんなまどろっこしい言い方はいいから、早く言えよ!」と癇癪を起こした。すると、ゆりかごの中の光がふがふが言いだし、僕は慌てて小声で「こら、早く教えろ!」と祐樹を睨み付けて囁いた。
「地上げ屋だよ」
「地上げ屋?」
「古臭い商店街を立ち退かせて、高層マンション群をぶっ建てようとしてるんだよ」
「えーっ!」
「商業施設もあるみたいだけど、借り賃はただじゃないしね。幾ら立退料を貰ったって、割に合わないんだよ。だから、商店街のみんなは反対してるんだけど、嫌がらせしてくるわけ。亮ちゃんが記憶を失う前、アイツが強面の軍団を引き連れてやって来て、商店街を練り歩いてたんだよ。亮ちゃんは、そいつらを追いかけてぶっ叩いた挙句、アイツの首を絞めて騒動を起こしてるんだよ。今日、亮ちゃんがアイツに見つからなくて本当に良かったよ」
「そ、そうなのか……」
「うん。まぁ、亮ちゃんには大人しくしてて欲しいから、忘れてくれるのが一番いいけど」
「はぁ? そんなことを言われて忘れるバカがどこにいるんだ?」
僕がそう言うと、祐樹は人一倍大きなため息を吐き、「とにかく、もう喧嘩はごめんだからね! のんちゃんや光が巻き込まれたらどうするんだよ?」と言ったので、流石の僕も「そうだな……」としか言えなかった。しかし、その後、仕事の間中、僕は悶々としていた。




