表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トワイライト 第三版  作者: 早瀬 薫
2/133

第一話 2

 僕の母、野崎由美は十六歳で僕を産んだ。未婚の母だった。母は妊娠が分かっても一度も産婦人科を受診したことがなく、産気づいてから初めて、近所の人の手によって病院に担ぎ込まれたというあり様だった。小さな病院の中では、母が緊急入院したことで、医師、看護師、他の入院患者やその家族で騒然としていた。


 待合室では患者の女性と、生後一ヶ月半の赤ん坊を抱えた女性が噂話をしていた。

「あの子、まだ十六歳なんだそうですよ」

「え? 今、分娩室に運ばれていった子?」

「ええ」

「お知り合いなの?」

「私が直接知ってる訳じゃないんだけど、主人の知り合いがよく行くレストランで働いてたらしくて、つい最近までお店に出てたらしいです」

「臨月でも働いてたってこと?」

「そうみたい」

「そうなの。大変だったわね」

「そうですねぇ。でも、良い子らしいですよ。だから、生まれてくる子もきっと良い子に育つんじゃないかな」

「そう言えば、あなたのお腹の子も後二ヶ月で生まれるんでしょう? 彼女の子と同級生になるわね」

「あ、そうですね」

「この子も同級生になるわね」

 お包みの中で、すやすやと寝ている我が子を笑顔で見守りながら、その女性は言った。

「可愛い……。気持ちよさそうに寝てますね」

「そうねぇ。よく寝る子で助かってるわ」

「男の子さんですか?」

「ええ」

「私のお腹の子は女の子なんです」

「そうなのね。うちはこの子の上に五歳年上のお姉ちゃんがいて、私にも赤ちゃんの世話をさせろって大変なの」

「ふふ、いいじゃないですか。女の子って可愛いですね。弟が出来て嬉しいんでしょう」

「そうだと思うわ。私も主人もね、この子が家に来てから、救われたような気がしてるの」

「?」

「でもね、この子、ちょっと病弱で……。だから、今日は大きい病院で診てもらうために、ここの先生に紹介状を書いてもらいに来たの」

「そうなんですか……」

「元気になったら、みんなに遊んでもらわなくちゃね」

「そうですね。同級生なんだから、みんなで仲良くしなくちゃ」

「そうね。仲良くしなくちゃね」


 病院の待合室で二人の女性がそんな会話をしていた時、分娩室で「おぎゃー」と赤ん坊が産声を上げた。医師や看護婦の「おめでとうございます!」と言う声が辺りに響いた。二人は顔を見合わせて笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ