第二話 1
病院のベッドで目覚めた時、ベッドの周りにいた数名の人間は、「良かった、良かった」と狂喜乱舞して僕の無事を確認し、数時間後、ほっとした表情で病院を後にした。
担当の医師と看護師が束の間いなくなり、病室に残った三人、優菜と祐樹と僕で話し込んでいた。僕はまたもや鏡を手に取り、自分の顔を眺めていた。見慣れているはずの自分の顔。何度鏡をのぞいても、そこには十七歳ではなく、老けた中年の男の顔があった。
僕は鏡を持ったまま、ワナワナと震えていた。寝ている間、手の筋力が衰えてしまったのか、鏡をポロッと布団の上に落としてしまった。その様子に気付いた優菜が、僕が落とした鏡を拾いながら言った。
「四週間寝てたし、前より痩せたみたいだから、そりゃ驚くわよね」
「えっ、四週間?」
「うん、四週間、ずーっと寝てたのよ」
「……」
僕は、ますます混乱した。十七歳の自分が四週間昏睡状態に陥ると、こんなに老けるのかと思った。僕は、祐樹だと名乗った男に向かって質問した。
「あの後、祐樹は大丈夫だったんだな」
「あの後?」
「うん、原付で一緒に走って逃げただろ?」
「はぁ?」
「その後、海に落ちたじゃん」
「海?」
「うん」
「海になんか落ちてないよ。亮ちゃんは一人でバイクに乗ってて、事故を起こしたんだよ」
「えっ?」
「わき見運転してて、横断歩道を渡っていた女の子に気付くのが遅れて、避けようとしてガードレールに激突したんだよ」
「マジかっ?」
「うん、マジ」
そう真顔で話している祐樹と思われる男に、「なぁ、祐樹、お前、今何歳?」と訊いてみた。
「はぁ? 四十歳だけど」
「えーっ!」
「亮ちゃん、私も四十歳だよ」
優菜がニヤニヤしながら言った。
「ということは……俺も四十歳?」
「同い年だからそうだと思うけど」
祐樹まで笑いながら、そう言った。
「十七歳じゃないのかっ!?」
「はぁ? 何言ってるのよ。もしかして、まだ夢の続きを見てるの?」
「そうか、夢の続きか……、いや、待て。祐樹、お前、高校を卒業してから何してた?」
「何って、大学に通ってたけど。亮ちゃんも、入学祝をくれたじゃん」
「えーっ!? マジでーっ!?」
「うん」
「祐樹、大変だ!」
「え、何っ? 何が大変なのっ?」
「俺、全然覚えてない……」
「えーっ!? マジでーっ!?」
今度は、祐樹と優菜が二人同時にそう叫んだ。