第一話 14
それから一年半の歳月が経ち、僕達五人は中学校を卒業した。隼人は父親の転勤に伴い、神戸の高校に進学することが決まっていた。残された僕を含む四人のうち、僕と祐樹は私立の男子校に進み、優菜と美帆は私立の進学校に進学した。優菜と美帆の受かった高校は難関校だったし、このままいけば順調に大学まで進むんだろうなと思う。実際、優菜の両親は喜んでいて、ほっと胸をなでおろしているように僕には見えた。優菜と美帆は、都内の大学進学を目指すのだという。しかし、後で分かったことなのだが、祐樹は僕に嘘を吐いていた。祐樹は公立高校に受かっていたのに、落ちたと両親に嘘を吐き、僕と同じ高校に進学することを選択したのだった。そのことが両親にバレた時、祐樹の父は烈火のごとく怒ったが、母はため息を吐きながらも「しょうがないわね」と許してくれたそうだ。
一方、天敵だった愛川哲也の消息は、中学卒業と同時に分からなくなった。僕は、愛川哲也が少年院から帰ってきた後、警戒していたのに、一年半の間、特に何も起こらなかった。しかし、僕はいつも思い出していた。
「俺はお前に必ず復讐する! 何年かかってもな! 首を洗って待ってろ!」
愛川哲也のその言葉が、どうしてだか僕の頭の中から消えることはなかった。
祐樹の変わり者の姉の桜木芳子は、昔と全く変わっておらず、このままいけばリケ女になるんだろうなと漠然と思っていたら、彼女は本当にリケ女の医学生になっていた。
「医者になるの?」
「うん」
「凄いね」
「まぁね」
「前から決めてたの?」
「うん」
「何科?」
「子供の頃はね、心臓外科にしようと思ってたけど、今は精神科がいいと思ってる」
「ふーん」
昔から変わってるとは思っていたけど、彼女はやっぱり変わっていた。家では、父との喧嘩に備えてか、いつも柔道着を着ていた。しかし、昔と風貌は若干変わっていて、伸び放題にして三つ編みにしていた髪の毛をバッサリと切り落とし、今風のショートカットにしていたし、眼鏡もやめてコンタクトレンズにしていたので、前よりは随分あか抜けたお姉さんにはなっていた。僕がふざけて「彼氏は出来た?」と訊ねると「子供がそんなことを訊くんじゃありません!」と僕の顔を睨み付け、僕のおでこを人差指でつついた。
一方、祐樹の祖母のトメ婆ちゃんは、相変わらず昔のまんまで、年寄というのは、何年経ってもあんまり変わらないものだなということに気付かされた。子供の頃からしょっちゅうしていたことではあるが、最近はアルバイト代が入る度に、トメ婆ちゃんのおやつカゴの中に菓子を投入し続け、その度毎にトメ婆ちゃんに謎のアドバイスを貰い、それによって何度もピンチをしのいでいた。しかし、最初からそのアドバイスに従って事前に窮地を脱していたわけではなく、後になってそのアドバイスのありがたみに気付くという頓珍漢ぶりだった。この間は、どら焼きを投入したら、トメ婆ちゃんは「二人乗りに用心せよっ!」と叫んで、どら焼きに食らい付いていた。相変わらず、訳が分からないアドバイスだった。




