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最終話 8
母が亡くなった。母は、僕の通帳を作っていた。そこに三百万円を貯めてくれていた。質素だった母。この金で自分の買いたい物を買えば良かったのに……。僕は、通帳を握りしめて泣いた。
芳子が結婚し、佐藤渉が桜木家の一員になった。渉さんは、畑違いの職種に転職したが、元々ジュエリーの制作に興味を持っていたためか腕も良く、しかも祐樹の父より若く僕より年長で、ぶっきらぼうで粗忽な僕らと違って落ち着きのある人だったので、取引先との交渉を一手に引き受けてくれるようになった。僕が制作したジュエリーに対するクレームにも「お宅が出されたデザイン画どおりに作っただけで、売れ残ったから引き取れとか、こちらに責任転嫁しないでください! これだけ丁寧に作られたジュエリーは、滅多にありませんよ!」と、いつも渉さんは、僕を庇い続けた。