最終話 3
僕は、事故した時と同じように、再び昏睡状態に陥っていた。僕は、長い長い夢を見ていた。夢を見ながら、そうか、あの事故の後も、こんな風に夢を見ていたのだと思い出していた。
僕は、生まれたての赤ん坊で、母の腕に抱かれながら、母の笑顔を見つめている。その笑顔を見つめていると視界の中に父の顔が現れた。父も僕の顔を見て穏やかに笑っている。父は僕の顔を見ながら、「僕がお父さんだよ」と笑った。そして、母から僕を譲り受けると、まるで宝物のように僕を受け取って、僕が寝るまでいつまでもいつまでも大事そうに抱っこして部屋の中を歩いていた。
僕は、よちよち歩きで外を歩いている。躓いて転ぶ。すると、近所のお姉ちゃんが、慌てて駆け寄って来て僕を抱き起した。母はそのお姉ちゃんに「ありがとう」とお礼を言った。お姉ちゃんは、僕が歩くのを見守りながら、すぐ近くに立っている。僕がよろける度に、すぐに近寄って来て支えてくれた。
僕は、保育園の砂場で一人で遊んでいる。すると、年長の男の子が近づいてきて、僕の持っていたスコップを取り上げた。僕は、泣いていた。近くにいた別の年長の男の子が、スコップを取り返して僕に返してくれた。そして、その後、その男の子は僕と一緒に遊んでくれた。