最終話 2
病院の休憩所のベンチに、祐樹が呆けたように座り込んでいる。祐樹は殴られた傷を手当してもらい、絆創膏だらけの顔になっていた。隼人は、不安を紛らわせるように歩き回りながら美帆に電話をしていた。
「今、手術が無事に終わったよ」
「良かった……、助かったのね……」
「うん。でも、まだ予断は許さないみたいだ」
「そうなんだ……。優菜は? 優菜は大丈夫? 電話しようかと思ったけど、今は止めておこうかと思って。私に何かして欲しいことがあったら何でも言って、と彼女に伝えてくれる?」
「うん、分かった。でも、優菜も亮の血で服が汚れたから、着替えが必要なんじゃないかな。今晩は病院に泊まるそうだよ」
「分かった。用意して病院に行くわ。隼人も疲れたでしょ? 帰りの車の運転、事故しないように気を付けて」
「うん」
隼人は美帆とそんなやり取りをしながら、祐樹に「お前も俺と一緒に一旦家に帰るか?」と問うと、祐樹は「もう少し病院にいたい」と返事をした。隼人は、祐樹のその言葉を聞くと、「そうか、お前の着替えも美帆に持ってくるように頼んでおくよ」と言い、そして、もう一度、優菜と芳子と話をするために、ICUに向かおうとした時、祐樹が隼人を引き留めるように呟いた。
「まさか、二十六年前の悲劇が繰り返されるなんて……」
「そうだな」
「しかも、今回はもっとタチが悪い」
「……」
「中学の時は隼人だったけど、今回は亮で、また僕は誰も助けられなかった……」
「バカか! あんな気が狂ったヤツ、誰も止められやしないよ!」
「……」
「俺、一旦家に帰って着替えて、美帆と一緒にまた帰ってくるから、夕飯はどこかで一緒に食べよう」
隼人は、そう優しく声を掛けると、祐樹は無言で頷いた。しかし、祐樹は、去って行く隼人の後姿を見ながら、「僕は、やっぱり、出来損ないだ……」とポツリと呟いた。