<Ⅲ>
「しおんおねえちゃんおかえり〜!!」
私が玄関の扉を開けると、玄関横の柱の陰から桜ちゃんが飛びついてきた。
「ただいま。いつもありがとうね」
そう言うと、私の足にしがみついていた桜ちゃんは、「うん!!」と言って私の足から離れた。
私は桜ちゃんを抱きかかえると、転ばないように気を付けながらゆっくりと階段を下って行った。
途中、桜ちゃんは足をバタバタさせて逃げようとしたが、私が危ないからやめてね、というと、素直に言うことを聞いてくれた。
階段を下り切り、ドアを開けると、私はキッチンにいるカエデさんに桜ちゃんを預けた。
「ごめんねぇ〜、桜がいつも」
カエデさんがそう言ってくれるのに、私は少し緊張した。
「いえ、私たちはいっつもお世話になってるばかりなので」
お父さんがいなくなり、お母さんも病院にいるこの状況では私は、ただの居候だ。そう思うと、やっぱり申し訳なく感じてしまう。
「そんなに気を使ってくれなくてもいいのよ? こっちには蛍さんと明香さんには恩があるんだし。それに、あなたたちは私の家族。ここの家に住んでる人はみんな家族なんだから」
カエデさんはそう言うと、にっこりと笑った。
私は、すみません、と言うと、自分の部屋へと向かった。
聞いた話によると、お父さんとお母さんは文字通り「世界を救った」らしい。
今や歴史の教科書に必ず載ってる「二週間戦争」。歴史の教科書では人類の敵となったAI「MIDORI」の開発者である河内守という人物が、彼の命と引き換えに、AIを止めたということになっている。
しかし、実際のところは、お父さんとお母さんが止めたのだ。
歴史でこの範囲の授業をしたその日、私は大声で先生に「私のお父さんとお母さんが止めました!!」と言って周りの失笑を食らった。
もちろん、家に帰るとすぐに私はお母さんを問い詰めた。なぜ、私に嘘をついたのかと。
すると、そばでそれを見ていたスギさんが、笑顔で私にこう言った。
「教育っていうのは洗脳なんだよ。それに、歴史は勝者の物語。『真実』なんてものは知るすべがないのさ」
はじめ、私はその言葉の意味が全く分からなかった。
でも、お母さんと一緒の学校に行って、そして今では、分かる。
歴史なんて、ただの物語だ。戦争をして、負けた国の歴史は葬られ、勝った国の歴史がそれを上書きしていく。
それと同じように、お母さんとお父さんの物語もまた、闇へと葬られたのだ。
別にお母さんたちは気にしてはいないようだったが、私はなんだかやるせない気持ちになったのを、今でもはっきりと覚えている。




