表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AR  作者: 青柳藜
chapter Eleven After the war.
90/147

<Ⅱ>

作戦終了直後です。

 気が付くと、私はベッドの上で横になっていた。

 見覚えのある天井。私がしょくぶつえんで最初に寝かせられていた部屋だ。

「……………………」

 ゆっくりと首をひねると、そこにはベッドに突っ伏して寝ている蛍がいた。

 手は、蛍にやさしく握られていた。

「…………!」

 私が手を少し動かすと、蛍は、ばっと飛び起きた。

「…………明香?」

 蛍が、泣きそうな顔でこっちを見てくる。

「……」

 私が何か言おうと息を仕込んだ瞬間、背中に鋭い痛みが走った。

 その痛みに、両手を強く握りしめる。

「しゃべらなくてもいい、今のお前は背中の傷で食べ物もまともに食べることができないような状態だ。けがが治るまで、安静にしていろ」

 蛍が背中の傷、と言うのを聞いて、私は胸の奥からこみ上げるものを感じた。

 その感覚が激しくなるとともに、あの地下七階の血の海がより鮮明に私の目の前に映し出された。

 背中の痛みよりも、この胸の奥のほうの苦しにから逃れたくて、私はベッドの上を転がり、うつぶせの姿勢になってから、近くに置いてあったゴミ箱を手繰り寄せ、その中にすべて戻した。

 何回も何回も戻そうとして、でも口の中からは酸っぱい液体しか出てこなかった。

 その間、蛍は私の傷を触らないように注意しながら、ゆっくりと背中を撫で続けてくれた。

 しばらくして私が落ち着くと、今度は両目から涙がこぼれ出た。

 私が何も考えずに飛び出していなければ、あの人たちはみんな死ななくてもよかったのだ。

 すべて、私のせいだ。

 息をするたびに、背中に痛みが走るが、それでもかまわず、私は泣き続けた。

 その間も、蛍は変わらず、静かに私の背中を撫で続けた。

 私が、もう涙が出てこないほど泣いて、それで少し落ち着くまで、蛍はずっと私の背中を撫で続けていた。

「……お前のせいなんかじゃない」

 蛍が、私の背中をさすりながらつぶやくように言う。

「俺の読みも甘かった。ああいうことになることぐらいは、俺だったら簡単に予想ができたはずだ。だから、責任はお前ひとりにあるわけじゃない」

 蛍は、自分を責めるかのようにそう言った。

 そんな蛍に、少しでも寄り添いたいと思う自分が、そんな資格があるはずがないのに、でも確かにいて、私はゆっくりと蛍の頭を撫でようとした。

 そして、その時に私は、自分の左足がなくなっていることに気が付いた。

 声は出せないので、目で蛍に聞く。

 蛍は私の言いたいことに気づいた瞬間、また泣きそうな顔をして、こう言った。

「銃弾が貫通していて、あのまま治療しても壊死することは確実だった。だから、切った。本当にすまない。お前が陸上をやっていることも、足が速いことが自慢なのもすべて知っていたのに……!」

 蛍は、耐えきれなくなったのか、私が寝ているベッドに顔を埋め、静かに泣き出した。

 これは罰なのだと、私はそう思った。

 左足がなくなったのは、私が軽率な行動をして人を死なせた罰。

 死んでしまった人たちからすると、私はずいぶんと恵まれている。

 それに、蛍が申し訳なさそうな表情をしてほしくはない。

 蛍の決断は、私と言う馬鹿を救うための手段だったのだ。何一つできなかった私とは違い、蛍は人を助けることができた。だから、自分を責める必要はないのだ。

 私は、そのことが少しでも伝わるようにと、蛍の頭をゆっくりと撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ