<Ⅴ>
「分岐地点だ! A班は中央制御室へ、B班は地下核融合炉へ急げ!」
前後から響く銃声に交じり、前のほうからそんな声が飛んできた。
ここからは、もう電磁波板は使えない。ここから先は、電磁波板が廊下の大きさよりも大きくなってしまっているのだ。
「一つだけ、言っておくことがある」
私が、レーザーカッターを背負いなおすと、隣で蛍がそうつぶやいた。
私は黙って蛍を見つめる。
いつもの蛍とは違い、人ではない、何か別の、神様のような雰囲気を、蛍は静かに醸し出していた。
「チャンスは、たぶん多くても十秒だ。それ以上だったら、アネモネがMIDORIを抑えていられる確証はない」
蛍は、静かにこう告げた。
「分かってるよ。まぁ、もっと長いと思ってたけど」
実は私も、そんんことぐらいは簡単に想像がついていた。
いくら蛍が天才だとはいえ、このMIDORIを作ったほうも天才だ。それだったら、慣れているハードを使うよりも、慣れていないハードを使うほうが弱くなるのは簡単に想像できる。
「……今更どうにもならんが、お前って足は速いよな?」
蛍が、私に恐る恐る聞いてくる。
知らない間に、蛍の纏う空気は、いつものものに戻っていた。
「……天才ハッカーなのに、そんな情報も盗まずに私を『しょくぶつえん』に入れたの?」
私が笑いながら言うと、蛍は「ぐ……」と言って下を向いてしまった。
遠くから、後三十秒で分離するぞ! と指令が飛んできた。
「……とにかく、俺は出発から四分ジャストで、アネモネを送りだす。合わせろよ?」
蛍は、もう一度、真剣な雰囲気を醸し出していた。
「大丈夫。だって……」
分離! と、号令がかかる。
「私、リレーでアンカーを任されるぐらいの実力は持ってるから」
別れ際、私は蛍にそう告げた。




