<Ⅲ>
「……おかえりなさい」
僕が手ぶらで橋の下へ帰ると、僕と一緒に生活をしている少女はそう言って僕を迎えてくれた。
「……ごめん。ミスった」
僕がそう言うと、少女はほんの少しだけ、悲しそうな顔をした。
「途中までは上手くいったんだ。でも、逃げるときに人にぶつかってさ…」
「……そう。残念だったわね」
少女は慰めてくれるが、僕の心はいやされなかった。
「…僕たち、なんでこんなところで――」
寝ころびつつ僕がそう言いかけると、頭の方で足音が聞こえた。
飛び起きて音のした方を見ると、そこには先ほどぶつかった人物が立っていた。
僕と大して変わらないぐらいの年齢の少年だと思うが、その人物の纏っている空気は、非常に大人びているものがあった。
「てめぇ…!」
僕はそいつの胸倉をつかんだ。
にもかかわらず、その少年の表情に変化はなかった。
「さっきはよくもやってくれたなぁ! お前さえあそこにいなければ、今日も飯を抜かずに済んだんだ!」
僕は胸倉をつかみつつ、そう言う。
すると、少年は静かに、こう言った。
「……金に困っているのか?」
非常に大人びたような、でも、何か足りない、そんな感じの声だった。
「あぁ。みりゃわかんだろ!? でなけりゃこんなところに住んでねえよ。分かったならたったと金置いて消えろ!」
後ろで少女が怖じ気づいているのが解った。
…でも、こうでもしなきゃ、僕らは生きていけないのだ。
「……金をやる代わりに、一つ、質問に答えてほしい」
「はぁ? 何ほざいてんだ? たったと――」
「いいから質問を聞け」
僕が言い返すと、少年はそう言って僕の手を振りほどいた。
僕が尻もちをついて驚いていると、少年は何でもない風なそぶりで、こう言った。
「…おまえは、神を信じるか?」
「……は?」
僕は質問の意味が解らなかった。
神? 神って神様のことか?
「……そんなもん、いるわけねえだろ」
「…なぜ?」
少年はそう聞き返す。
なぜだって? だって…。
「…だって、もしそんな奴がいたんなら、俺たちこんな目に遭ってねえだろ?」
少年の視線から目をそらしつつ、僕はそう言う。
「……でも、神がわざとそうしているのかもしれないぞ?」
少年は言う。
「…もしそうなんだったら、そいつは神じゃなくて悪魔だ」
その言葉に、僕はぶっきらぼうにそう答えた。
すると、少年は少し感動したそぶりを見せ、こう言った。
「……素晴らしい」
「……は?」
なにが?
「おまえの考えは素晴らしい。『友達』になってくれないか?」
「………は?」
いきなりどうした? ていうか、こいつ何いってんの?
「俺は上城蛍。職業はハッカーだ」
少年――上城蛍はそう言って、右手を出してきた。
しかし、僕はその手をはねのけて置き上がった。
「ふざけるな。金を置いてどっかヘ行け」
僕はそう言うと、晩飯を盗みに街へと歩き始めた。




