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AR  作者: 青柳藜
chapter Eight Answer.
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<ⅩⅡ>

 気が付くと、一週間が過ぎていた。

 集中が切れた瞬間、とてつもない吐き気がこみあげてきて、俺はそのまま床に戻そうとした。……一週間なにも食ってなかったから、出てくるものは胃液ぐらいだったが。

 俺は這うようにキッチンまで行くと、冷蔵庫の中に入っていたスポーツドリンクを手に取り、少しずつ、胃の中に入れていく。

 体調が多少安定するまで11時間。精神的にも身体的にも死にそうになりながらも、なんとか持ち堪えた。

 俺は自分の部屋へ戻ると、改めて自分の仕事の成果を確認した。

 今頃、いろんな政治家たちが顔面蒼白でいるだろう。

 なぜなら、俺がすべての裏帳簿を、ネット上にさらし上げたのだから。

 手法は極めて簡単だ。

 まず、近頃運用を開始した「政治支援システムMIDORI」をばれないように乗っ取る。次に、そっからそいつを使って銀行データにアクセス、全ての出金記録を俺に回させて。9個のウィンドウを同時操作すればよい。

 それをやる過程で、相当やばいものにも手を触れたから、もうこことはおさらばしないとまずいが。

「いや~しかし、MIDORIの試験、手伝っといてほんとによかったなぁ! これで仕事が一個片付いた!」

 俺はわざと、大声で笑った。

 でも、その笑いも、三十秒と続かなかった。

「……なぁ、本当に馬鹿だよなぁ、俺。だって、こんなことして、何が楽しいんだよ。なあ!!」

 俺はそう叫ぶと、キーボードを思いっきり殴りつけた。

 一週間の連続タイプで壊れかかっていたそれは、殴られることでついに壊れた。

 壊れたキーが、いくつか床に落ちる。

 それと同時に、俺の中で何かがはじけ、続いて両目から冷たい液体が頬を伝った。

「ごめん。俺、お前に何もしてやれなかった。結局自分のことしか考えられなかった。嘘、つき続けた。」

 仕事が終わった状態で静止していたコンピューターが、思い出したようにロック画面へ移行する。

「こんな中途半端に馬鹿なんだったら、俺、いっそのこと大馬鹿のほうがよかったな……」

 ――じゃぁ、捨てろよ。自分の能力に鍵を掛けろ。それは、頭のいい奴にしかできない、最高の逃げ業だ。

 すごく久しぶりに、この声を聴いた気がした。

 俺はその声に妙な親近感を覚えていることに気が付き、馬鹿馬鹿しくて、笑った。

「……俺みたいな馬鹿じゃ、そんなことはできないさ」

 俺が泣き笑いながらそういうと、「声」は俺を小ばかにしたように笑った。

 ――お前、またうそをついて逃げるのか? 本当にこの馬鹿は、いつまで立っても成長しないなぁ。

「なんだよ。馬鹿って言ったのはお前だろ?」

 ――お前は馬鹿だが馬鹿ではない。というか、屁理屈こねるのはもうやめろ。めんどくさい。

「……そういわれちゃ、反論の余地がねえな」

 ――そういえば。

 声が、思い出したようにつぶやく。

「なんだよ。まだなんかあんのか?」

 ――いや、一つ質問があってね。

 俺が尋ねると、声は笑ったように俺に訪ねてきた。

「……お前が俺に質問するなんて、珍しいな」

 ――別にいだろう? 俺もお前なんだ。自分に自分で質問して何が悪い。

「……それもそうだな。ていうか、早くしてくれ。時間がない」

 そう、俺はさっきからどんどん頭の回転を落としていっている。もう五分もたてば、「普通」になれることだろう。

 それは少し、さみしい気もしたが。

 ――ああ、それもそうだな。では。

 声は、一拍おくと、こう尋ねてきた。

 ――お前は、神を信じるか?

「……ずいぶんとぶっ飛んだ質問だな」

 ――普通になっちまう前に、天才の意見が聞きたかったんだ。

 そう言ってくる声は、だんだんかすれてきているような気がした。

「……そうだなぁ、俺は、信じない」

 ――なぜ?

 そう言ってくる声は、ほとんど聞き取れなかったが俺はそう言っている気がした。

「この世界には、いろいろな宗教がある。その宗教の内、正解が一つでもある確率は確率論的には世界三大宗教だけを見ても八分の七。更に、もっと多くの宗教があるんだ。当然、確率論を見ただけでは、実在すると考える方が確かだでも、確率論は前提がそろっていて成り立つものだ。こんな不確定要素に使えるようなもんじゃない。そこで歴史を見るんだよ。中世の時代なんかじゃ、人間が神を利用していた。神が実在するとして、そんなことをする人間を許すと思うか、という話だ。神が実在したならば、それこそ神話のような鉄槌を皇帝たちに落とすはずじゃないか」

 俺が答えても、もう「声」は聞こえなかった。

 俺は静かに目を閉じ、――そして、ゆっくりと開けた。

「ごめん椿。さよなら」

 俺は部屋の中でそうつぶやくと、部屋のドアを、ゆっくりと閉めた。

 玄関に行き、靴を履いて、外へ出る。


 そこには、見たこともないきらびやかな世界が広がっていた。

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