<Ⅴ>
なぜばれた?
トイレの個室の中で音楽を聴きながらも、俺の頭の中ではさっきからその言葉がずっと頭の中を巡っていた。
今まで生きてきた中で、こんなことは今までには一切なかった。
さっきだって、ずっと周囲の視線を観察して、絶好のタイミングで手を挙げたのだ。あの女の子が気付いている余裕などあるはずがない。
となるとばれた理由は二つ。
一つは、本当に俺の行動が読めていたのか。それが違うとしたら、偶然当たったのか。でも、後者だったらよほどの馬鹿でもない限りあんな堂々とした言動は取れないだろう。
だとすると、本当に俺の行動が読めていたことになる。
俺は自己紹介が終わったであろう時間になるとすぐ、教室に帰った。
担任が大丈夫だった? と声をかけてくるのを無視して、すぐに自分の席に座る。
担任はこちらをちらちらと見ながら、ホームルームを終わらせた。
それと同時に、俺は後ろに座る女の子の腕をつかみ、こちらに引き寄せた。
「さっきの、なぜわかった?」
驚く女の子の耳元で、俺はそうささやく。
「……なんとなく」
……その言葉に、俺はあきれ返った。
こいつは、この女の子は、何も考えずに直感だけで俺の行動を当てた。
才能、というよりも、これはただの偶然だ。
要するに、この女の子は、さっき言った「よほどの馬鹿」だというわけだ。
俺がゆっくり手を離すと、そのまま自分の荷物を片付ける。
「あの、わたしは『つばき』っていうんだけど、あなたは?」
再生紙の束をカバンの中に入れていると、後ろからそんな声が聞こえた。
「『上城蛍』だ」
カバンに荷物を詰め終えると、俺はそう言って教室を出た。
それが、俺と椿との出会いだった。
今から思うと、俺は椿のことを、人生で初めて「不思議」だと思ったのだと、そう思う。




