<Ⅲ>
二〇四三年九月十一日、朝八時。
教室の中はそこらじゅうが荷物で散らかっていて、空気はクラスメイトの香水のにおいが混じりまくって、カオス状態になっている。要するに、いつも通りの教室という訳だ。
私――瀬戸内明香の通っている学校は中高一貫の女子校で、その学校は物理的に大きく二つに分かれている。
一つは高校塔といって、高校生の先輩たちが日常を送る場所。
そして、もう一つが、私達中学生が日常を送る中学塔だ。
その中学塔の中の「三―A」と書かれた教室。
その中の教卓の真横の席で、私は机に突っ伏していた。
さっきからため息ばっかりついてるせいか、周りに人は全くいない。
……いや、一人来た。すっごい嬉しそうなオーラを纏っている。
ちなみに私には、それが誰だかわかる。
学年順位も下から数えた方が早いような私に、話しかけてくる人など一人しかいないからだ。
「やっほー。……って明香ぁ~。そんな調子じゃぁ、『アレ』、買ってもらえなかったんでしょ~」
「おはよう、結衣。その通りよ。……ったく、いつまでMP3プレイヤー一つで過ごせって言うんだか」
顔をあげて返事を返した相手は、案の定川瀬結衣だった。
彼女は、私の唯一の……中一からの友達で、学年一の成績を誇り、なおかつ結構な美少女なので、もう非の打ちどころがない。
もし共学に行ってたら、きっと今頃は彼氏の一人や二人ぐらい…あ、それはないか。重度のゲーマーだし。
あと、「アレ」というのはもちろん、昨日発売、今日サービス開始のARゲームである、「WMe」のことである。これは、ARGCが出てから初めての本格的な大規模RPGだ。
いまどき、殆どの人がARGCという、メガネのような機械でメールや電話をやっている。そうでなくても、一昔前のハイスペックPCやスマートフォンを使っているのが当たり前だ。
「まぁ、あのお母さんじゃしょうがないよねぇ」
「まあね、『買ってあげてもいいけど今度の定期テストで学年十位以内取ったらね』だよ? そんなもの取れるわけないじゃんって話だよ。ほんとに」
ため息をつきながら、私は結衣に愚痴をこぼす。
「学年十位以内なら少し頑張ったら明香ならとれるよ」
「『結衣なら』ね?」
「いや、明香でも取れるよ。だって、明香頭いいもん」
「まさかぁ。現国で二点取って先生泣かせた私が?」
「それでも、物理は百点以外とったことないじゃん」
「まあね。てか、そんなこと言うなら、全教科九十八点以上しか取ったことないあんたはどうなんのよ」
そんな何気ない朝の会話を続けること少々、私達の会話の話題は成績のことから先ほども出てきた、「WMe」へと替わっていた。
「ほんで、『WMe』って、どんな感じの内容なの?」
私は結衣にそんなことを聞いてみた。どうせ買えないと分かっていても、気になるものは気になるのだ。
「……知りたい?」
「先生にも、始業時間を過ぎたにも関わらず、教卓の横でしゃべっている理由が知りたいですねぇ」
突然そんな声が聞こえ、私と結衣はそちらの方に目を向ける。
いつの間にか、一時間目の始業時間を過ぎていたらしく、現国担当であり、なおかつ私が大泣きさせた相手でもある柏原先生が笑顔で私達に視線を送っていた。
ちなみに、目は笑っていない。
その様子を見て、クラスからは笑い声が漏れる。
「す、すみません! 柏原先生」
結衣は顔を真っ赤にして彼女の席へ戻っていく。さすが優等生。
柏原先生はため息をつくと、まあいいかというような顔をしたあとに、
「それでは、昨日宿題にしたプリントを出して下さい」
と、クラスに指示を出した。
みんながその指示に従って、プリントを机の上に出していく。
私も、いわれた通りにカバンの中に入っているはずのプリントを探し始める。
「それでは、後ろから前へ回して下さい。まさか今頃になって忘れたとか言う人はいませんよね?」
あたりまえだ。さすがの私でも、何度も宿題を忘れてはいられない。この前なんか放課後に職員室に呼び出されて二時間ぐらい説教受けた揚句、溜めてた宿題全部終わるまで帰らせてくれなかったのだ。さらに、そのあと親にまで連絡が行ったもんだから、その夜の我が家は、泥棒が入った後のような状態になったのだ。
そんなこんなで、私は最近は真面目に宿題をやるようにしている。
鞄の中に入っているだろうプリントを引っ張り出す。今日はちゃんとやって…
「……あ」
出てきたのは、雪のようにきれいな白色の紙だった。
こういうことって、よくありますよね(笑)
※段落に関する部分を修正しました。




