<Ⅲ>
そのあとは、ただただ後片付けがされるだけだった。
政府がらみの実験だったため、事件のことは一切公にされず、だれも責任はとらなかった。
そりゃそうだ。「なかった」事件の責任など、とる方法がない。
ただ、僕の周りの環境は異常なスピードで変わっていった。
リセクティエスタが失踪し、そして翆が死んだ。
他人の恋人を奪った罰だと、僕はその事実をただ受けとめた。
葬式の時も、泣けなかった。
ただ、花を添えるときに指が翆の顔に触れてしまった時の感触は、よく覚えている。
非常に冷たく、かたい感触。
まるで、僕の心を表しているかのようだった。
どこまでも冷たい心。
人間性のかけらも無い。
無機質な僕の心は、どうやら感情というものを忘れてしまったようだった。
あるのは、ただ論理的に思考を繰り返す脳のみ。
こんな僕を見たら、きっと翆は悲しむだろうか? それとも恐怖するだろうか?
……まぁ、そんな時には嘘をついてしまうんだろうけれど。
月日は流れ、明子さんから理性を学んだ、いや、感情を学んだAIは、ついに政府機関に組み込まれることとなった。
「こいつの名前、どうします? 所長」
新しい秘書が聞いてくる。
そういえば、名前を付けていなかった事を思い出した。
「『MIDORI』で、どうだ?」
僕は、今でもなぜ彼女の名前をAIの名前にしたのかは分からないが、恐らくは、自分への戒めだったのだろう。
五年前のことを忘れるな、という自分への戒めだ。




