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AR  作者: 青柳藜
chapter Six Negotiation.
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<Ⅱ>

過去の話に戻ります。

「方法は無しだ」

 蛍はそう言って、話を締めくくった。

「つまり、この状況下では、どうしても駄目だというのだね?」

 椅子に座りつつそういうのは、警視庁の鈴木警視長だ。

「君たちも、そういう意見でいいのかな? 天才ハッカー諸君」

 そう言って、鈴木警視長はアヤメちゃんとタンポポくん、そしてアネモネちゃんに話しかける。

「……蛍ができないというのなら、出来ない。私達は、蛍ほど頭が回らないから」

 口を開いたアヤメちゃんに、タンポポくんもぼ、僕も……と、頼りなく言う。

「君は、どうなのかね? ロボット君」

 鈴木警視長はそう言って、アネモネちゃんの方を睨みつける。

「私、ロボットって名前じゃないです」

 アネモネちゃんはふくれっ面でそう言う。

「わかった。アネモネ……だったかな? 何か策はないのかな?」

 鈴木警視長はめんどくさそうにそう言う。

「……ある訳ないでしょう。バカ」

 それに対し、アネモネちゃんはふくれっ面で返す。

 ……そんな光景を、私は後ろから、スギさんとカエデさんと共に見続けていた。

 そもそもどうしてこんなことになったのか。

 それを説明するには、ちょっと長くなるかもしれない。

 私達は、スギさんと川辺さんの交渉により、全員で警視庁のなんとか本部っていうところに行くことになった。

 そこで、私は初めて今までずっと地下室にいたということに気付いたのだが、まぁとにかく、パトカーに乗って警視庁まで行った。

 初めてパトカーに乗った緊張と、「いつどこから何が飛んできてもおかしくない」という蛍の言葉、さらにその言葉を体現したかのような廃墟と化した街並みで、道中のことはあまり覚えていないが。

 車の中で、蛍はそこにある大型コンピューター初期化して、容量ゼロにしてからそいつ使って何とかしたら出来る、と蛍はそう説明した。

 しかし、その肝心の建物は、ろうそくの明かりで部屋を照らしていたのだ。

 要するに、電気が無い。

 そうなると、ハッキング戦争なのに電気が無いからコンピューターが使えない、という不思議な状況が生まれる。当然、開戦以前にぼろ負け確定だ。

 当然、電気が無いと蛍の計画もパー。

 ということで、現在、このような言い争いになっている訳だ。

「……君たちがいれば、あの悲劇をもう一度繰り返さなくてもいいと思ったんだがな…」

「はっ、あの時と今回じゃ話が違いすぎる。大体、河内はどこいったんだ?」

 落ち込む鈴木警視長を、蛍が鼻で笑う。

 五年前…?

「あの、スギさん、『五年前のなんちゃら』って、なんですか? 聞いたことないんですが…」

「え? ああ、僕も今初めて聞いたよ。でも、蛍さん昔からずっとこの仕事やってきてるから、僕たちにはわからないことが多いんだよねぇ…」

 スギさんは蛍を見ながらそう言う。

「え? 蛍って、そんなに前からこんなことやってるんですか? どう見たって十八歳ぐらいにしか見えないんですが…」

 スギさんの言い方だと、十年ぐらいは普通にやってるように聞こえてしまうではないか。

「え? 蛍さん、今は十六だけど、八歳ぐらいの時から、普通にこの仕事やってたらしいよ?」

 …………………。

「はちさい、ですか?」

 八歳って、あれ? 小学校の低学年だよ? 子供向けのアニメとかを見てわあわあ騒いでる時期だよ?

「うん。八歳」

 それなのに、スギさんはさも当たり前のように、そう言ってくる。

「いや、おかしいでしょう!? 義務教育とか、そこらへんの色々あるじゃぁないですか!?」

「いや、別に普通だよ? 君が恵まれていただけで、学校に行ったことがない人なんて、今のご時世山ほどいるし」

 スギさんの言葉に、私は不意を突かれた。

 前に、私は日本の貧困率についてのテレビ番組を見たことがあったのだが、そこで酷い子は学校に行くどころか、明日の食べ物にも困っていると言っているのを思い出す。

 急に、自分がこの場にいることが申し訳なく思えてくる。

「……というか、あの人の場合、めんどくさかっただけなんだろうけど」

 ……でも、続いたその言葉に、私のその気持ちは跡形もなく消え去った。

「小学校すら行ってないで、よくこんな仕事できましたね。蛍」

 私は少し馬鹿にした感じで行ってみた。

 めんどくさくても、行かなければならないのが世の常だろう。なのに、面倒なだけで行きもしないってどういうことなのだ。

「え? だってあの人、IQ三百平気で超えてるんだよ? 普段は頭回してないだけで、回したらすごいんだよなぁ〜」

 ………………………。

「一般人のIQって、どれだけでしたっけ?」

 IQが知能指数のことを言っていることぐらいは、私にもわかる。それに、三百が異常値であることも、また。

「えっと…百とかだっけ?」

 それなのに、スギさんは平然とこんなことを口走る。

 要するに、蛍は単純に考えて人の三倍頭がいいのだ。

 ………化け物だ。

「……ふざけるのもいい加減にしろよ?」

 私たちが後ろで雑談をしていると、いつの間に話が進んだのか、蛍は鈴木警視長の机の前で肩を震わせていた。

 その様子を見て、スギさんはひきつった顔をした。

 いや、スギさんだけではない。カエデさんも、それこそタンポポくんやアヤメちゃんもひきつった顔をしていた。

 そして、アネモネちゃんは泣きそうな顔をしている。

 蛍の周りに、尋常じゃない殺気が漂っているように見えるのは、私だけだろうか。

「私は真面目に話している。この状況を打開するには、アネモネ君をMIDORIの中へ送り込むのが、最適な手段だ」

 鈴木警視長は、顔色一つ変えずに、そう言い放た。


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