<Ⅱ>
「ふぅ……」
病室で翆にまた来るよと言い、僕は病院のロビーのソファーで缶コーヒーを口に含んでいた。
翆とは大学の時に知り合い、そこからなんとなくで仲良くなり、気が付けば恋仲になっていた。僕が大学院に進んだのに対し、院にはいかなかった翆は、初めは就職活動に励んでいたが、結局どこにも受からず、なんだかんだで、僕の部屋に居候していた。……まぁ、付き合っていたから別にいいのだが。
そこから、なんかいろいろな偶然が重なり、僕は何故か研究所の所長という階級にまで一年で上り詰めた。
翆が難病だと分かったのは、つい最近のことだ。
僕が研究所から帰ると、いつもは玄関のところで待っていてくれる翆が、なぜか出てこないから不思議に思い、リビングに行くと、翆が倒れていたのだ。
その時は、救急車を呼んで、いろいろ応急処置とかをやってもらったりして、何とか一命は取り留めたが、そこから翆は、ずっと病院生活を送っている。
彼女自身は元気そうに振舞ってはいるが、そうでないのは数字が証明している。
これが全て夢で、起きたら家で翆が朝飯が出来たと言って起こしにきたりとかはしないものかな、などとばかげたことを考えつつ僕はもう一度缶コーヒーを飲もうとしたが、もうすでに飲み干してしまったことに気が付き、近くのゴミ箱に缶を捨てた。
病院を出て、研究所までタクシーに乗る。
研究所のロックを解除し、研究室の中に入る。
「お帰りなさい、所長」
僕が中に入ると明子さんが迎えてくれた。
「ただいま。状況は?」
「順調だよ。これなら、来月には試験運用ができそうだ。」
僕がそういうと、横から、この研究所で副所長をやっているリセクティエスタがそう言った。
彼は、僕の研究を認めてくれた教授の研究員だったが、なんだかんだで、今はここにいる。
「そうか」
今僕らが話しているのは、スーパーコンピューターと深層学習型AIを融合させた、次世代型AIのことだ。
ちなみに、名称はまだ決まっていない。
「一刻も早く、こいつを完成させないとな」
僕がそう言うと、リセクティエスタと明子は、同時にはいと言った。
「そういや、おまえらいつ結婚すんの?」
僕がリセクティエスタに言うと、明子とリセクティエスタは同時に顔を赤らめた。
何を隠そう。彼らは現在進行形で付き合っているのだ。
「い、いつかは……」
明子が下を向きつつそう言ってくる。
「あはは、ごめんごめん。冗談のつもりで言ったんだが……お詫びっていうか、なんだけど、今から居酒屋にでも行く? 俺のおごりで」
僕は慌ててそう弁解した。セクハラみたいなことで訴えられるのだけはごめんだ。
リセクティエスタは、いいですねと言って、明子は、では私も…と言い、三人で居酒屋へ行くことになった。
誰にも知らせてはいないが、この研究を、僕はある目的のために行っていた。
その目的は――
今日はここまでで。




