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AR  作者: 青柳藜
chapter Three The botanical garden.
20/147

<Ⅳ>

「きみ、『しょくぶつえん』に入らない?」

 スギさんは、唐突に私にそんなことを言ってきた。

「『しょくぶつえん』……?」

「あぁ、言ってなかったね」

 スギさんは一息おくと、話を始めた。

「『しょくぶつえん』っていうのは、今僕らがいる、ハッカー集団、なのかな?とにかくここのことだよ」

「は、ハッカー集団!?」

 ハッカーってあれ!? 人の個人情報とかそういうのをいっぱい盗んで闇で取引してたりするやつ!?

「そ、それって犯罪じゃぁ……」

 急にこの人たちが怖く思えてきた。

 ハッカー集団って、要するに犯罪集団ってことだよね!? こんなに優しそうな人たちがいるのに、犯罪者だったなんて……

「あ、それは違うよ」

 スギさんは、相変わらずの笑顔で答える。

「ち、違う……?」

 自分でハッカーと言っておいて、何が違うのだろうか?

「あなたが思ってる『ハッカー』は多分、『クラッカー』の事を言っているのでしょう?」

 カエデさんが、後ろから声をかけてきた。

 どうやら、台所用事が終わったようだ。カエデさんは、私の左隣のソファーに腰をかけた。

「く、『くらっかー』?」

 クラッカーとは、お菓子のことだろうか? それともあの火薬とか入ってて紐引っ張ると飛び出す奴だろうか?

「そう。クラッカーは、コンピュータネットワークに不正に侵入したり、破壊・改ざんなどの悪意を持った行為、つまりクラッキングを行う人のことを言うんだ」

 今度は、スギさんが答える。

「え、それってハッカーのことなんじゃ……」

 だめだ。ハッカーとクラッカーの違いが分からない。どっちも同じなんじゃ……。

「いや、ハッカーは、企業のコンピュータシステムのセキュリティなんかを検査るために、依頼されて意図的にシステム侵入を試みる人のことを言うんだ。要するに、生産的に行うか、悪いことを行うかの違いだね」

 続けてスギさんが説明してくれる。

「は、はぁ……」

 よくわからないが、まぁ、そういうものらしい。

「それで、どうするの?」

「へ?」

 どうするって?

「いや、うちに入るのかどうかっていうこと。入るんだったら、きみの身の安全は保障する。三食、お風呂、賃金付きでね。入らないんだったら、まぁ、それでもいいよ。」

 さぁどうする、とスギさんは言ってきた。

 どちらの方がいいのだろう。改めて考える。

 身の安全を保証するっていわれても、確かに、この状況ではそちらの方がいいのだろう。しかし、この事態に収拾がついたら、私はまたいつも通りの生活を送ることになる。

「……仮に」

「うん?」

 私はスギさんに向けて、こう言った。

「仮に、この事態が収拾したら、私はいつも通りの生活に戻れますか? 家族と一緒に、自分の家に住めますか? ここじゃなくて、自分の家です」

「……」

 私の言葉を聞いて、スギさんは考え込む。

「……やっぱり無理ですよね。無理言って……」

「いや、いいよ」

 私の言葉を遮り、スギさんは言った。

「別に、いつ来てくれてもかまわない。以前との違いは、もう就職先が決まったかどうか、だけだね」

「……」

「さぁ、どうする?」

 ……ここまで譲歩してくれているのだ。答えは一つしかないだろう。

「入ります。『しょくぶつえん』」

「そっか! じゃぁ、宜しく。明香ちゃん!」

「はい! よろしくお願いします!」

 2043/9/14 AM5:32。

 私はそう言って、スギさんと握手を交わした。


いつもよりも量が少ないですが、キリがいいので今回はこれにて。

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