<Ⅱ>
あの女の人と出会ったのは、たしか、二カ月前だったはずだ。
その時までずっと、私達は「旅」をしてきた。
目的は、私達の仲間――人間を探しだし、一緒に生活をすること。
「女の人」に出会う前日、初めてこの町……というより町だったもの、といった方がいいかもしれない。なぜなら、そこには私達の仲間はいなく、「廃墟」と呼ばれるらしい建物の残骸が続いているだけだったから。
とにかく、そこへ来て、いろいろと気分的に疲れてたから、私達はその日はいっぱい遊ぼうと決めていた。
ということで、二人でかくれんぼをしていた。
私が鬼になって、そこら中で黒を探しまわっていた時。
そんな時に、私は大きな水槽に膝を抱えて、まるまって入っている女の人を見つけた。
その時、私は二年間、お母さんの残してくれた地図を頼りに、仲間を探してきた甲斐があったと跳んで喜んだ。でも、なぜ女の人が水槽の中に、しかも裸の状態で入ってるのかという事だけが、疑問だった。
「そこにいるのは、誰?」
「あっ、ええと……私の名前は上城白、です」
突然、眠ったままの女の人がそう尋ねて来たので、私はとっさに自分の名前を教えていた。
「上城……?」
「うん。お母さんがそう言ってた」
名前には「名字」という物があるらしく、それは親から子へ引き継がれるものらしい……いろいろな絵本を読んで、そこらへんの事を一応理解していたつもりだったから、私はそう答えた。
しかし、気のせいだろうか。女の人は戸惑いの表情を浮かべたように見える。
……いや、気のせいだ。顔は全く動いてない。腕の隙間からかすかにのぞく顔は、少し笑っているかのような、そんな表情を保ったままだ。
「あなたの他に人間は?」
「にんげん……? あぁ、私達の『仲間』のことね?」
以前に本がいっぱい置いてある大きな家で、私達の事を「人間」というのだということを思い出す。
「仲間探しの旅に出てからは、あなたが初めてだよ?」
「え? ええと……」
なぜだろう。女の人はひどく困ったような声を出す。
「どうしたの?」
不思議に思って聞くと、女の人は、一回、静かに息を吐くような音をだしてから、こう言った。
「えっと……私は、あなたの仲間、『人間』じゃないの」
……? 何を言ってるんだろ、この人。
「でも、あなたは……」
「たしかに人間に見えるけど、私は人間じゃない。私は、人工超知能搭載型アンドロイド。何度も言うけど、人間じゃないの」
「え……? じんこ……ちょうち……どろいど?」
聞きなれない単語が並び、頭が混乱する。
確かに、女の人の口はおろか、表情すらも全く動いてはいないのだが、それにしても、やっぱり見た目は人間そのものだ。
「まあ、混乱するのも仕方ないよね」
女の人は、苦笑交じりにそう言う。――顔は全く動かないけど。
「じゃぁ、今から一つのお話を聞かせてあげる。つまらないかもしれないけど、聞いてみて?」
「……うん、わかった」
私が近くのコンクリート塊に腰かけると、女の人は「お話」を始めた。
「そう、これは二〇四三年の九月十一日、今からだいたい六〇年ぐらい前になるわね……」
※段落に関する部分を修正しました。
これにてこの章は終わりです。




