<Ⅴ>
「結衣!」
私は結衣の家に上がり込んでいた。
あの人たちが倒れたすぐ後、あちこちで悲鳴が上がって、町は一瞬で地獄絵図と化した。
公衆電話もつながらないし、MP3プレイヤーについていたFMラジオ機能を立ち上げても、雑音が響くだけ。
家族が心配になって家へ戻っている途中、私はあることに気が付いた。それは、異変が起こった人が全員、ARGCを付けているということだ。
となってくると、少なくとも私の家族は問題がない。なぜなら、そことは一切無縁な環境にあるからだ。でも、結衣はARGCを持っているし、あのゲーマーだ。WMeをやっていた可能性がものすごく高い。ということで、私は結衣の家に特攻していたのだ。
玄関で靴を脱ぎ、結衣の家に無断で上がり込む。
家の奥の方にあるカウンター式の台所に、結衣の姿はあった。
「……」
その姿を見て、私は言葉を失った。
結衣のお母さんが力なく横たわっている横で、結衣は彼女の妹の桃ちゃんを抱きしめ、座り込んでいた。
「結衣…?」
私は恐る恐る声をかける。
「……あ、明香?」
結衣は動かず、かすれた声で私の名前を呼んでくる。
「ねぇ、お母さんが起きないの… ねえ、どうしよう、お母さんが起きないよ…?」
こちらに振り向きながらそう言う結衣は、ただうつろな笑みを浮かべていた。
「……おねえちゃん?」
状況を完全には把握しきれていないような桃ちゃんが、結衣に話しかける。
結衣は桃ちゃんの顔をみて、
「だ、だいじょうぶ…。おかあさん、ちょっと寝てるだけだから…。すぐに目を覚ますから…」
頭をなでながら、そう語りかける。
「結衣」
うつろな笑みを浮かべる結衣に、私は話しかける。
「……」
しかし、結衣は何も答えない。
何も話さないのなら、しょうがない。私は桃ちゃんにも話しかけた。
「桃ちゃん、ご飯は食べた?」
桃ちゃんはこの状況を理解できていない。出来るだけ、普通な感じの話題がいい、と思い、私は晩御飯の話をした。
そう聞くと、桃ちゃんはフルフルと、首を横に振った。
「よぉーし、そういうことなら、私が何か作ってあげよう! 何がいい?」
そう聞くと、桃ちゃんは目を輝かせて
「オムライス!」
と叫んだ。
「…よ、よぉーし、お、オムライスかぁ~。分かったよ! やってみるね!」
家庭科の点数が毎回0点の私からしてみれば、地獄級に難しいが、やれるだけやってみよう。
……私の中であふれかえりそうになっている感情を隠しながら。
「それじゃ、結衣、地下の倉庫、入るよ」
「……うん」
そう、力なく返事をする結衣を後目に、私は地下の倉庫へと足を踏み入れた。
…それが結衣を見る最後の時になるとも知らずに。
私が地下の倉庫へ足を踏み入れた瞬間、背後から爆音と爆風が私を襲った。
ちょっと少ないですが、今日はここまでで。




