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AR  作者: 青柳藜
capter Fourteen Everyday that started to break.
130/147

<Ⅸ>

 翌日は、夏期講習の最終日だった。それと同時に、一学期からずっと続いていた学校生活にも一区切りついた。

 すべての講習を終えて、私が席に座ったまま伸びをすると、友達が今日遊びに行こうと誘ってきた。時間を確認しても、まだ午前十一時だった。お母さんの病院の面会時間の終わりは五時だから、カラオケぐらいだったら行けそうだ。

 私は友達にいいよと伝えると、さっそく電車ですぐのところにある繁華街へ連れて行かれた。

 そこにある高校生三時間無料のカラオケ屋に入り、私たちは大いに盛り上がった。とはいっても、私の知らない曲ばかりが流れたので、私は曖昧に盛り上がるそぶりを見せていただけだが。

 カラオケ屋を出て、次にどこかでお茶しようということになったけれど、そろそろお母さんの病院に行かないといけない時間だったから、私は断って、一人で駅へ向かった。

 一人になったとたん、ものすごいさみしさが襲ってきた。孤独感に支配されそうになった。

 不意に、ゲームセンターの軒先に置いているクレーンゲームが目に入った。景品は、柔らかそうで、大きめのクマのぬいぐるみだった。

 見たとたんに、景品が欲しくなった。お母さんが好きそうなものだったのだ。

 私は一度もゲームセンターというところに入ったことはなかったが、これのためになら、ちょっとお金を使ってもいいかなと、そう思って、財布からお札を取り出し、それを近くの両替機の中に吸い込ませた。

 十枚の百円玉になって出てきたそれを、私はポケットの中にしまい込むと、さっそくさっきのクレーンゲームへ向かった。

 さっそく百円を投入し、クレーンを動かした。一回目で目的のものを掴むことに成功したが、途中でクレーンから抜け落ち、台の上へ転がってしまった。

 もう一枚投入し、再度挑戦するも、今度は空気を掴んだだけで、何の進展もなかった。

 そうやって何度も何度もやっているうちに、ポケットの中に入っていた百円玉が、残り二枚になっていた。

 さっきから、少しづつ進展しているけれど、残り二枚では私の技量では何ともできない。

 私は願うようにゲームへ向かった。すると、肩に手を置かれた感触がした。

「……もし、そのぬいぐるみが欲しいんですか?」

 そんな低い男の人の声も聞こえ、驚いて振り向くと、スーツ姿のさわやかそうな男の人が立っていた。

「あ、すみません、長いこと占領してしまって……」

「いえ、ただ、そのぬいぐるみがどうしても欲しいのなら、私に任せてくれないかと」

 私が慌てて荷物をどけようとすると、男の人は焦ってそう言った。どうやらこのゲームの順番を待っていたわけではないようだ。

「私、結構得意なんですよ、クレーンゲーム。様子を見たらあと二枚しかないようですし、ここは私に任せてもらえないかと」

 男の人がそう言ってきたので、私はなら、お願いしますとポケットの中に入っていた百円玉を取り出した。

 男の人は百円玉を受け取ると、ゲーム機へ向かった。

 そして、慣れた手つきでボタンを押し、見事、景品をゲットしてくれた。

 私は男の人からそのぬいぐるみを受け取り、お礼を言った。

「ちょっと待て、君、もしかして上城紫苑さんかな?」

 私が駆け足でお母さんの所へ行こうとすると、男の人はそう言ってきた。

「そうですけど、何かありましたか?」

 なんで私の名前を知っているんだろうと不審に思って、男の人は私に名刺を差し出してきた。

「申し遅れました。私は、MIDORI解体に携わっているものでして、あなたのお父様のことで、一つお話があってきました」

 お父さん、そう聞いて私は、目の前が真っ白になる感じがした。この前のこと――あの施設を警備していた警察官の言葉を思い出したのだ。

 いったいなぜ、お父さんは私たちのことを捨てたのか、逃げ続けているのか、たくさんの疑問が頭の中にあふれかえった。そして、その答えを知っている人が目の前にいると、なんだか怖かった。

「……なんでしょうか」

 それにもかかわらず、私は男の人にそう返していた。自分にも説明できない何かが、私の背中を押していた。

「ここじゃ、場所が悪いですね。移動しましょう」

 ついてきてください。そう言う男の人は、黒い笑顔を浮かべた。

 空には知らないうちに雲が広がっていた。

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