<Ⅷ>
その日の夜、綾香ちゃんは家に泊まっていくことになった。というのも、今日は綾香ちゃんの家に彼女の両親が帰ってこないらしく、昨日のこともあり、一人でいると危険だからというのが理由だ。
綾香ちゃんは、お母さんの部屋で寝ることになっていた。他に空いている部屋がなかったのだ。
でも、蕨とアヤメさんたちが仕事に戻り、カエデさんは家事をはじめ、スギさんは今仕事を頼されている会社との交渉に入ってしまい、桜ちゃんは寝てしまったので何もすることがなくなってしまった綾香ちゃんは、私の部屋にやってきていた。
私はその時もまだ制服の状態で宿題をやっていたのだが、綾香ちゃんは白いパジャマを着て、でもまだ元気そうにしていた。
勉強はしなくてもいいの、と冗談半分で聞くと、綾香ちゃんは今日だけ特別です、と言った。
「もうちょっとで宿題が終わるから、その間これでも読んでて? 遊ぶものがあんまりないから」
そう言って、私は帰りに買ってきた古い紙の本を差し出した。
綾香ちゃんは、紙の本なんて初めて見たと、物珍しそうにしながら、それを読み始めた。
私が再び宿題に戻ると、私のノートに文字を書いていく音と、紙をぺらぺらとめくる音とが、静かな部屋の中を支配した。
しばらくして、数列の問題の最後のを解き終わり、私は一息ついた。
「終わりましたか?」
綾香ちゃんがそう言ったので、私は終わったよと、返事をした。
「この本、すごいですね。こんなに昔に書かれているのに、二週間戦争のことをすごい詳しく予想してる」
綾香ちゃんの言葉に、私はそうね、と頷いた。
そのあとも、綾香ちゃんは私のベッドにもたれかかってその本を読み続け、暇になった私は、タブレットから自分の好きな小説を開き、それを読み始めた。
ただ、いつもなら楽しんで読めるような文章でも、今日はすぐに飽きてしまった。小説の内容が、あの紙の本に比べて、非常に薄っぺらいものに感じたのだ。
私は今読んでいた小説を閉じると、別のものを開き、それを読み始めた。ただ、それもすぐに飽きてしまった。そんなことを何度も何度も繰り返していたら、とうとう飽きてきて、私は綾香ちゃんに声をかけようとした。
でも、綾香ちゃんはベッドにもたれかかったまま寝てしまっていた。
その寝顔が、何も知らない、とても幸せそうな顔だったのを見て、私はなぜか、うらやましくも、かわいそうな、ごちゃごちゃとした気持ちになってしまった。
私は念のために綾香ちゃんに毛布をかぶせ、自分はベッドの中にもぐりこんだ。




