<ⅩⅣ>
だいぶ超展開になってしまいました……
お母さんが入院している病院と家までの距離は駅二つ分ぐらい離れているから、私はいつも電車で家まで帰る。けれど、今日はなかなか家へ帰りたくなかったから、歩いて帰ることにした。
あまりよく知らない道だったから、私はポケットから携帯電話を取り出すと、地図アプリを起動してその指示の通りに進んでいった。
途中で、小さな公園があったから、私は何となくそこへ立ち寄った。
「うがぁぁぁぁぁぁあああ!」
近くのベンチに座って、私は頭を抱えてもがくようにそう叫んだ。
蕨にあの鍵をいつ渡せばいいのか、そんなこと、私に頼まれても分かるわけがなかった。
だけど、お母さんのあの真剣な表情を見せられたら、断ろうにも断れない。だから、とりあえず引き受けてしまったけれど、一体どうしたらいいのか、この先のことを全く考えてなかった。
私はしばらくベンチでもがき続けていたけれど、どうすればいいのか、解決策は何も思い浮かばなかった。
私はベンチから立つと、再び地図アプリを起動して、ゆっくりと家へ歩き始めた。
その間も、ずっと鍵のことを考えていたけれど、ふと、ある建物の前を通り過ぎたとき、私はまた、お父さんのことを思い出した。
その建物は、旧政治支援システム管理所、通称「AIの墓場」だ。こんなところにあったなんて、初めて知った。
お父さんは、ここの中に今もいるのだろうか、私がそう思った瞬間、私は自然と建物のほうへと歩き始めていた。
この建物には、普通の人なら確実に入ることを許されない。なぜなら、この建物の中には国家機密レベルの情報が詰まっているからだ。でも、もしこの中にお父さんがいるのだったら、私も入れてもらえるかもしれない。今までだったら、絶対にお父さんとなんか会いたくはないと思っていたのに、今では会いたいと思っている。お母さんを一人にした事実は変わらないはずなのに、どうしてか、気持ちは変わっていた。人間の心って不思議だな、と思った。
私は期待と不安を心の奥底に押し込んで、慎重に、建物の門番のいるところへ歩いて行った。
「……あ、あの、すみません」
背が高く、いかにも強そうな感じの、肌の黒い警察官に、声をかける。警察官は、ぎろりと睨んできた。
「ここは一般人は立ち入り禁止だ。出ていけ」
警察官が低い声でそう言うのを、私は怖くて逃げだしたい思いを押さえつけ、言い返した。
「わ、私は、上城蛍の、娘です。お、お父さんに会いたくて、来ました」
「いかなる理由があろうと、ここは立ち入り厳禁だ。あと、上城蛍の名前は最重要機密事項だ。いったいどこでその名前を知ったのかは知らないが、今回だけは見逃してやる。独身の者に家族がいるなんて、そんな馬鹿げた嘘はつくんじゃない。二度と来るな」
警察官が言う言葉を聞いて、私は茫然とした。
お母さんやスギさんは、確かにお父さんはアネモネちゃんを助けるためにここへ行ったはずだ。だったら、家族は無論、見捨ててはいないだろう。
でも、今この警官は明らかに、上城蛍は独身だと言った。それはつまり、私たちの存在をお父さんは隠しているということだ。
それは、今の私には、もう私たちはお父さんから捨てられていると、そう思うのに十分なことだった。
「はい……すみませんでした……」
私はただ茫然とそう答えると、おぼつかない足取りで家へと歩いて行った。
私の中では、ただ悲しみと絶望のようなもの、そして怒りのようなものが渦巻いていた。
ただ単純に、お父さんが私たちを、特にお母さんやスギさんを捨てたことを、私は許すことができなかった。
そんな怒りが渦巻く中、私はがむしゃらに歩き続け、そして、道に迷ってしまった。
道に迷い、そしてどこへ行けばよいのかわからず、あたりを見渡すと。
私は、その時遂に、この世界の裏側で起きていることを知ってしまったのだった。
――私の目線の先では、謎の白い、怪物みたいな機械が、小学生ぐらいの女の子を食べていた。




