<ⅩⅠ>
MIDORI内のアネモネです。
何もない、白い部屋だった。
見渡す限り、白が覆いつくした世界。今自分が踏みしめているはずの地面も、分からないぐらいに白かった。そういえば、影がない。いったいどうしてだろうか。
そう思っていると、私の下に影ができた。そして、私がいつも知っていた、あの暗い地下室、蛍が主に遊んでいた暗い地下室、そして、私が生まれたあの暗い地下室が、知らないうちに私の目の前にあった。
「蛍〜? どこへ行ったんですか〜?」
いつの間にどこへ行ったのか、私は蛍を探したが、蛍は風呂場にも、倉庫にも、台所にもいなかった。
「まさか、そんなわけは……」
私はそう思いながらも、一応家の外を確認することにした。めったに外に出ない蛍が、そとに出るわけないと思って。
「……え?」
家の外に出ると、そこは、灰に変わった世界だった。
後ろを振り向いても、そこは何かが落ちて爆発した後のような、大きな穴が開いているだけで、今さっきまで自分がいた地下室は、どこにもなかった。
「ほ、蛍……? いったいどこへ行ったんですか……?」
私は目の前が真っ暗になったような気がして、私頭を覆って地面にしゃがみ込んだ。
何か、大切なことを忘れているような気がした。でも、機械である私が、忘れることなどあるはずがない。では、記憶がブロックされていると考えた方がいいのだろうか? どっちにしろ、なにか、大切なことを忘れているようにしか、私には思えなかった。
「どうしたの? まだ、何も思い出せない?」
目の前から突然そんな声がして、私は前を向いた。
目の前に、全身から淡い緑の光を放つ少女が、悲しそうな顔をして立っていた。
「もう気付いているんでしょう?」
目の前にいた少女がそう言うと、私の中に、記憶が流れ込んでくるような感触が走った。
そして、私は、その記憶に、絶望した。
「あなたの探している人――あなたが『好き』だった人は、もうとっくに死んでいるの」
緑の少女の言葉で、私の中の何かが、全て消えた。
後に残ったのは、絶望から少しでも逃げたいと思う、そんなどうしようもない感情だった。
誰もいない、灰に変わった世界で、私の絶望の叫び声だけが、むなしく響いた。




