<Ⅶ>
「今日もお邪魔しま〜す! 今日配られたプリントです、これ」
綾香ちゃんはソファーに座りながらそう言って、私にプリントの束を渡した。
「毎回ありがとうね、わざわざ」
私がこう言うと、綾香ちゃんはそんなのことないです、と言った。
「だって、いっつも勉強教えてもらってるし、晩御飯食べさせてくれるし。私、両親が働いているので、家ではいつも一人なんですよ」
それを聞いて、私は驚いた。そのことを、私は今まで聞いたことがなかった。知らなかった。
「だから、こんなにいいところで、楽しくて……ほんとに毎日プリントもってくるだけでいいのかなって思っちゃいます」
「……なら、もう少しまともな点とってこい」
いつの間にか、蕨がドアのそばに立っていた。
「えへへ……ごめんちゃい」
呆れた顔をする蕨に、綾香ちゃんが苦笑いしながら謝る。
まったく、とぼやきながら、蕨は綾香ちゃんの正面に座った。
「……で、今日は一体何が分からなかったんだ?」
「あ、えっとえっと……」
綾香ちゃんはそう言って、カバンから教科書とノートを引っ張り出す。
「この、確率っていうのが……」
綾香ちゃんが恐る恐る教科書を蕨に差し出すと、蕨はそれを手に取り、しばらく眺めた。
そして。
「……このやり方はよくない。俺が別のいい方法を教えてやる」
蕨はそう言って、綾香ちゃんのノートに「P」や「C」などの記号を並べ始めた。
一方の綾香ちゃんは、その記号たちを見て首をかしげている。
長い授業になるな、と、私は桜ちゃんと一緒におままごとをやりながら思った。




