<Ⅴ>
紫苑は、話を聞き終えると、今日はもう帰るね、と元気なく言った。
私が気を付けてね、というと、紫苑はぼそりとうん、と言って、病室を出ていった。
こんな話をするんじゃなかった、私は思った。紫苑のあんなに暗い顔は、今まで見たことがなかった。
紫苑は、よく言うとおっとりとした、悪く言うとぼーっとした感じの子で、私に似てあまり頭がよくない。でも、しっかり者で、そしてとてもやさしいところは、蛍そっくりだった。
だから、この話は紫苑にはとても重くのしかかってしまった。
蛍がしょくぶつえんを出って言った理由、それは、川辺という警察官に復讐するためでも、私たちといるのが嫌になったからでもない。
ただ単純に、アネモネちゃんを助けたかっただけなのだ。子供のように純粋なその気持ちは、そばにいた私ならわかる。いや、しょくぶつえんのみんななら、分かる。
しょくぶつえんのみんなは、誰も蛍のことを責めはしないし、馬鹿にしたりもしない。蛍が本当に立派な人だということを知っているから。
ただ、それは蛍の過去を知っているからだ。だから、それを知らないあの子たちには、それを分かれなんて、到底言えないし、あの子たちもちゃんと納得したりはできなかっただろう。
だけど、その過去を、今、伝えるべきではなかった。
もっと、早く伝えればよかった。そうすれば、蛍があの子たちに嫌われることもなかったし、あの子が、紫苑が、そう思わなくてもよかったのだ。
繰り返しても意味のない言葉が、頭の中をぐるぐると回る。そして、そんなことばかり考えてしまう私が、私は心底嫌いだった。
しばらくそうしているうちに、頭の中がこんがらがったあやとりの紐みたいにぐちゃぐちゃになってきて、いろいろと考えるのが億劫になってきた私は、ベッドの中に深く潜り、そのまま寝た。




