<Ⅱ>
「それでね、そのあとスギさんとタンポポさん、カエデさんにものすごく怒られてたんだよ?」
遊園地に行った翌日、その日から始まった夏期講習を終えてから、私はいつも通りにお母さんの病室を訪ね、そして何気ない話をしていた。
私がお母さんにしてあげられるのは、こういう何気ない日常を、お母さんに知ってもらって、元気を出してもらうこと。それだけだ。
「……お母さん?」
「えっ? あ、ああ、そうね。カエデさんらしいわね……」
ただ、今日のお母さんは、いつものお母さんと違って、なんだかぼーっとしている。それに、何かを悩んでいるようにも見える。
「……お母さん、何かあった?」
私が聞くと、お母さんは、ちょっとね、といって、それからなんだか真剣な顔になって、こう言った。
「今から、とっても大事なことを話そうと思うの。ちゃんと、聞いてちょうだい?」
お母さんのいつになく真剣な目に、私の脳裏を嫌な想像がよぎった。
もしかして、もうお母さんは、助からないのか? それを、私に言おうとしているのか? 私は、そう思った。
「今から話すのは、昔のこと。まだあなたたちが生まれる、ずっと前のこと」
ただ、予想に反して、お母さんからは意外な言葉が出た。
「え? 過去? お母さんの?」
「ええ。でも、ちゃんと、しっかりとしたお話なの。だから、ちゃんと聞いてくれないかな?」
でも、どのみち大切な話であることに変わりはないらしい。
私はパイプ椅子に座りなおすと、まっすぐにお母さんを見た。
「今から話すのは、あなたのお父さんと、私が出会った時の、そのころのお話ね」
お母さんはそう言うと、遠い昔の嘘にまみれた教科書の内容の、本当のことを語り始めた。
「昔、アネモネっていう名前の女の子がいたの」




