3・迷宮です
訓練で迷宮に行くことをつたえられて数日間、私たちは訓練の合間に王宮の図書館で私たちの行く迷宮に現れる魔物について調べていた。
迷宮について調べて分かったことは、上の階層は広く、下の階層は狭くなっている漏斗状になっていることと、とにかく魔物の種類が多いということだった。
カーシャモラルは神話上では百階層といわれており、現在は三十階層まで到達している。そこまでの階層に出現している魔物の特徴をまとめている書物が三十冊以上(ほかの迷宮は一冊でだいたい十層分)あった。
それに迷宮というのは生きており定期的に内部の構造が変化するという特徴もあった。(ローグライクゲームのダンジョンみたいなものと思ってくれればいい)
いやーそれにしても魔物の多いこと多いこと。みんなで「なにこれ多くね?」とか言って黄昏てたよ。気分的には定期考査の暗記教科をやってる時のような感じだったね。
ほかのクラスの人たちも気の毒そうにこっち見てたし。
それからさらに数日後
「ハァ!」
気合の声とともに巨大なネズミのような魔物の『ラージマウス』が切り裂かれ倒れる。
「ふぅ……。これで最後か」
「さすがにすごいな」
私たちは今、迷宮『カーシモラル』の第一層に来ていた。
『カーシモラル』の第一層から十層に出現する魔物は基本的にさっきの『ラージマウス』のように動物のような形をしている。
危険度は第一層ということもありそこまで高くないが、その代わりに迷宮自体広いため探索に時間がかかり、その分魔物との戦闘が多くなる。そして最も脅威なのは、
「っ!?日野くん後ろ!」
「なに!?クソッ!」
「解放《ウィンドバレット》!」
日野の後ろから襲ってきた『ラージマウス』がまちちゃんの放った不可視の弾丸に貫かれて絶命する。
獣型ゆえの高い生命力故発生する討ち漏らしによる背後からの奇襲が頻発する。
これこそがこの迷宮の一層から十層にかけて最も恐ろしいことなのだ。
まだ浅い層ということもあり魔物事態の危険度はさほど高くないのだが、こういった不意打ちがあるため油断することはできない。
「ありがとう、カレン、青崎さん、助かったよ」
「パーティーだし気にしなくていいよ、日野くん!」
「油断しないでくださいね、日野君」
「あぶなかったな日野」
「ああ、すまなかったリンドウ」
これでようやく戦闘も終わり一息つくことができる。
今迷宮に入っているみんなは何組かのグループに分けて探索をしている。私たちのグループは勇者達の旗頭とでもいうべき生徒会長の日野君と、日野君と幼馴染らしい三日月カレンという女生徒、同じく日野君と幼馴染の沼田リンドウという男子生徒にまちちゃん、ここねちゃん、私、それと引率の騎士……というかぶっちゃけ騎士団長のアレックスさんだ。こんなとこにいていいのかな。
まあ、何はともあれ今現在私たちはこの七人で探索をしている。
ちなみに日野君、カレンさん、リンドウ君の祝福は以下のとうり。
・日野光希
《祝福》『怖いものなし』
身体能力の大幅向上と各種の魔法適正、状態異常耐性を獲得するというわかりやすく強い能力であり、特に制約やデメリットというものはない。しいて上げるとすれば魔物との遭遇率やトラブルを起こしやすくなることだろう。
・三日月カレン
《祝福》『危険察知』
名前からは強い印象を受けないが、罠や待ち伏せ、隠し武器、果てには攻撃の初動といった危険を察知するといったもので、不意打ちなんかが全く通じなくなる。ただし攻撃の初動は自分に向けられた物でないと察知できないという弱点もある。
・沼田リンドウ
《祝福》『雷神招来』
体を電気に変える能力であり、使用中は物理的な攻撃が効かなくなり、速度も光速とはいかないがマッハ20(殺〇んせーくらい)くらいになるとのこと。デメリットとしては肉体がなくなるので自分以外に触れなくなること(触ったら感電する)、一度能力を切ると五時間の充電が必要ということだ。
前衛を日野君、ここねちゃん、沼田君、アレックスさん。後衛はまちちゃんひとりで役割をになっていて、斥候として三日月さんが動いている。
なお私は基本的に後衛で状況に応じていろいろ動いているという感じだ。
いや、後衛少ないとは思うけどこれでも案外ちゃんとまわるんだよ、まちちゃんの能力って消費型だから準備さえ整っていればすぐに魔法を発動できるし。あとまちちゃんのもらってた武具が能力に見事にはまっていて、名称を『収納の腕輪』っていう伝説級の腕輪で効果は名前のとうり収納することができるという物で、収納量には限界がなく、生きているものでなければなんでも収納できる。また、収納しているものは任意で取りさすことができるのというものなので、この中にカードを入れておけばほしいカードを即座に取り出すことができる。
加えて、何を収納しているかは常に把握できるので何を取り出すのか迷うことがない。
ね、まちちゃんにあってるでしょ?もうひとつ防御用の『障壁の指輪』というものもあるがそれは省略。
「青崎さんカードの残量は大丈夫?」
「はい、あと二百枚はありますのでまだ余裕はありますね」
「そうか、リンドウあと何時間だ?」
「あと三時間ってとこだな」
戦闘も終わり、みんな自分のコンディションやほかの人の状態を確認していく。
迷宮にもぐっていると急な戦闘や予期せぬトラップなどがあるため、こういったチェックはできるときにしなければいけないのだ。それに迷宮内はずっと洞窟のような風景(たまに吹き抜けみたいな穴は開いていたりする)なので細かなコミュニケーションで精神的なケアをする必要があるらしい(アレックスさんとかほかの騎士団の人、迷宮に潜りにきている探索者の人とかから聞いた)。
チェックも終わり私たちは再び探索を始める。
再び始めるといっても次の層に行くための階段はもう見つけてあるのでそれを降りる。
降り始めてざっと十分は経っている。しかし階段の底が見えてこない。
「これはもしかしたらあたりを引いたかもな」
いつまでたっても終わりが見えないのでみんな不安がっているとアレックスさんがそうつぶやいた。
「あたり、ですか?」
「ああ、そうだ」
アレックスさん曰く、迷宮にある階段は基本的に一階層したの階に行くものしかないが、極まれに何階層か一気に進む階段が生成されるのだという。それを探索者の間ではあたりというのだそうだ。
大体二十分くらいすぎただろうか、ようやく底が見えた。
アレックスさんが言うには十階層は降りているらしいので今は十一階層ということになる。
長い長い階段を降りるとそこに広がっていたのは大量の水晶の輝く通路だった。
「ふわぁ~!奇麗だね!!」
ここねちゃんが単純な感想を漏らしているが私もほかの人も同意見だった。水晶自体が光っているかのように通路を青白い幻想的な光が埋め尽くしている。
「見とれるのはわかるが、先に進むぞ」
アレックスさんにそう言われてハッと正気に戻り私たちは探索を続ける。しかしみんなどこか上の空であたりをキョロキョロ見渡している。
本当は気を引き締めないといけないのだろうがきれいなものはきれいなので私もあちこち見渡している。
そうこうしてると天井がドーム状になっている広場のような場所に出た。そのドームは全面が水晶で被われており、光を反射してより一層幻想的だった。しかし、ここでは誰もその光景に見とれるもはいなかった。
何せそこでは一人の青年と一匹の魔物が戦っていたのだ。
青年と闘っている魔物は一言で言い表すなら巨大なトカゲというところだ。ただし、全身に美しい水晶をまとっている全長十メートルの大きさのだ。
その姿に私は見覚えがあった。しかし、その魔物がここにいるわけはないのだ、なぜならその魔物は三十二階層に現れ、探索者たちを全滅の危機にまで追い詰めたとされているのだから。
その魔物の名前は『クリスタルドラゴン』、Aランクの魔物で分類は『地竜』、その中でも上位竜と呼ばれる魔物だ。