1・異世界転移です
出来れば楽しんでください、
「え?」
気が付けば私、『西木 琴音』はそこに立っていた。
混乱しながら辺りを見渡すと私と同じく呆けたように立ちすくむ生徒たちが目に入った。
そんな生徒たちを見て少し冷静になるために、私は自分に起こったことを整理するために記憶を漁る。
思い出せる最後の記憶は、学校の授業も終わったので、友達とおしゃべりしながら帰る準備をしているといきなり視界が切り替わったということだった。
つまり、現時点では学校のみんなが居ること以外何の情報もない。ということが分かった。
それだけわかれば十分だった。それに、目的であった冷静になるという目標は達成できた。
そうして冷静になった頭で再度周りを見渡す。
そこはヨーロッパの建物のようであった、そしてここにいるのは生徒ばかりかと思っていたが、よくよく見れば学校の先生もいるし、私たちの様子を見るようにして騎士のような人物が何人か少し離れてみていた。
ほかにも何かないかとあたりを見渡そうしていると私たちに声がかけられた。
「皆様、私の話をお聞きください」
その声に視線を向ける。そこにいたのはふりふりとしたドレスと騎士たちよりも強い存在感を持つ少女だった。
そのそばに王様らしき人物を見つけたのでその少女は王女なのだろう。
「私は『アーケオス神聖国』王女のメルリアと申します。ここは皆様の元々いた世界とは違った世界です。皆様のことは創造神様からの御神託により『勇者召喚』という儀式を用いて勇者として召喚させていただきました」
本当に王女でした。
自己紹介に合わせて行われた優雅な礼にほぼ全員の男子と極一部の女子が反応する。
挨拶の中にあった『勇者召喚』という言葉によって私たちが異世界に来たことが判明した。ならばこの後に続く言葉は『勇者』というキーワードで大体理解できる。
「厚かましい願いだとは理解しています。ですが私たちにはもうこれしかないのです、皆様どうかお願いしますこの世界の魔王を倒しこの世界をお救いください」
やっぱりそうきた。
女王様曰く、今現在この世界には人類の敵『魔族』とそれらをまとめ上げる存在である『魔王』と呼ばれるものがおり、人類は滅亡の危機に瀕しているそうだ。
数年前までは何とか対抗できていたらしいが、近年魔族が魔物を従える技術(この世界の魔物は魔物以外の全生物の共通の敵であり人類や魔族などの生物とは共存は不可能だといわれていたようだ)を開発したようで、今は侵攻を抑えるので精一杯とい状況のようで、この状況を打破する方法として『勇者召喚』の儀式をつたえたそうだ。
なお、元の世界に戻る方法は不明であり、創造神からの神託によれば、魔王を討てば道は開ける。とのことらしい。
それと、『勇者召喚』によって召喚されたものは創造神から《祝福》というものを授けらているため戦う力はあるらしい。
皆これからどうするべきか迷っていると一人の生徒が前に出て声を上げる。
「みんな、俺は元の世界に戻るために、この世界にいる人々を助けるために魔王と戦おうと思う。でも俺一人じゃ無理だと思う。だからみんな俺に力を貸してくれ!」
確か彼は私のクラスのクラス長兼生徒会長の『日野 光希』だったか、刑事の父親を持つ生徒で人一倍正義にこだわりを持っており、才能も人望も持っているが自身の正義感を悪気なくそれを他人に押し付けてくる熱血漢だったはずだ。
そんなことを考えているうちに人望を持つ彼の発言により私たちの方向性は決定した。
「日野!俺はお前についていくぜ!」
「日野君、私も日野君についていくよ!」
ほぼ全員が日野の行動方針に賛同する。
さすが人望のある生徒会長様だ。
ふと気になったので周りの騎士たちの表情を見てみると、勇者たちが自分たちの味方になることがうれしいのか喜んでいた。しかし、王女と王を見れば表面上は完璧な笑みだったが、なぜか背筋が冷えるようないやな感覚に襲われた。
創造神自体はわからないがこの国は信頼できないな。そういうことをなんとなくではあるが思った。
しかし、私のこういった感はなぜかよく当たるのだ。
そうこう、していると水晶の球がいくつか運び込まれてきた。全員が何なのかと疑問に思っていると王女様から解説がはいった。
「皆様、これは『心眼の水晶』といいます。これに触れることでことで皆様に与えられた《祝福》を確認することができます」
《祝福》以外にも《技能》と呼ばれるものもありそれもこの水晶を使うことで調べることができるようだ。
一人に大体1~2分位かけ全員の《祝福》確認していく、その間みんな気になるのかほかの人の《祝福》を見たりしている。
あの人はあんな《祝福》なのか~とぼんやりしているとどうやら自分の番になったようで私の前に水晶が差し出される。
強い能力だといいなと思いながら水晶に触れると自分の《祝福》映し出される。
《成長加速》
自身の成長速度が大幅にアップする。
成長系でした。確かに強いがどうせなら派手なのがほしかった。
「ことねんの《祝福》は成長系か~。ゲームとかじゃ強いほうのスキルだよね~」
「琴音ちゃんの《祝福》、琴音ちゃんらしいですね」
表面上は冷静に、しかし内面では少し落ち込んでいると二人の少女から話しかけられる。
『ことねん』とふざけたあだ名で呼ぶのは野崎 ここね、元の世界では隣の席であり、私と仲良くしてくれていた。クラス一明るく元気な女子生徒だ。
《祝福》は自分の体を動物のものに変化させる《獣化》というものだ。しかし、なんにでも変化できるわけではなく、変化する動物は直に見たことがないと変化できないという制約がある。
もう一人の少女は、青崎 真知、元の世界では図書委員をしており、ここねと同じく私と仲良くしていてくれた生徒だ。
《祝福》は、魔法を保存できる《魔術札》といい、魔法を能力で作り出すカードに封じ込め任意で発動できる能力であり、この魔法を込めたカードは自分以外も使用可能である。込めることのできる魔法は、この《祝福》の使い手の使える魔法に限定される。
使い方次第でなんにでも応用の効く《祝福》だ。
ここねちゃんはすごいかっこいい《祝福》だし、まちちゃんの《祝福》はすごく便利だと思う。それに比べて私の《祝福》は……。確かにラノベとかじゃ成長系って主人公が持ってるような強い能力だけど、皆に貢献できるわけでもすごくかっこいいわけでもなく地味だ……。
もうちょっとかっこいい能力がよかった……。
「うん、これから頑張ろうね」
内心二人と比べ地味な能力で若干へこみながら、二人にこやかに言ってごまかす。
「地味な《祝福》だからってへこまずにね~」
「私も派手な《祝福》じゃないですから、お互い努力しましょうね」
アハハ……バレテーラ…。
「まぁ、死なないように頑張ろうね~」
「皆そろって帰れるように頑張りましょう」
二人とも良い子だ、私も能力が地味だからといってへこんでないで二人に負けないように頑張ろう!