77 ドレスクイーン
後日の学校。
天気がよかったのでなんとなく外で昼飯を食っていたら後ろから服をちょいちょいとひっぱられてそちらを見る。
葉月がスケッチブック片手にいた。
「時間……大丈夫ですか?」
「大丈夫だが。昼食ったのか?」
「は、はい」
早いな。少食なのかこのために早食いしたのか。
後者だとあんまり褒められたものじゃないけどって母親じゃないんだから。
葉月はスケッチブックを開いてページを見せてくる。
そこには戦闘用のドレスとでもいったような服の女キャラの絵が3つ並ぶ。
よく見なくても、ゲーム内の俺だとわかってしまった。
だって、右下に『AKI』って書いてあるんだもん。
「前に頼まれたもののパターンです……ど、どれがいいですか?」
「それをわざわざ聞きに来てくれたのか」
「は、はい。せっかくならせめて好きなものをと」
スカートの時点で複雑なんだけど、ここまでしてもらうと流石に選ばないと悪いよな。
左は姫騎士という言葉が似合いそうな装飾の物になっている。
真ん中のは魔法騎士というイメージも付きそうなローブっぽさの入り交じるデザイン。
最後に右が所々に花が散りばめられたフラワーナイトとでも言えそうな雰囲気の物だ。
まず左は却下だ。さすがに姫を自分から選ぶ度胸はない。まあそれ言うと花もかもしれないけど、髪飾りをつけてるからそれを否定材料にはしたくない。あと、魔法は全然育てていないから真ん中のイメージが俺自身にないんだよな。
消去法にはなるけど嫌いじゃないデザインだから、そうしよう。
「左……じゃなく葉月的には右か? その花のやつが俺は好きかな」
「わ、わかりました。前に作った髪飾りをあわせられるようにしますね」
「そうしてくれると……まあ、バランスが整えやすい」
「任せてください!」
普段リアルでは多くは見せないドヤ顔が見れただけ収穫としておこう。
そしてその日の放課後。
ゲームにログインした俺は時間を持て余していた。
防具の完成を待っている間に何をしていれば良いんだろう。
「見つけましたわ!」
そんな感じで、理由もなくセンターシティの露店通りをぶらついている時だった。
後ろから妙な威圧と強い声が響き渡って反射的にそっちを見る。
「ふふふっ、プリンセスブランドの1つ。ドレスクイーン・ピアとはわたくしのことです!」
「ごめん。しらん」
突然名乗られたけれど、聞き覚えも見覚えも全く無いので反射的に言ってしまった。
「なんですって!? そんな……わたくしのことを知らないなんて」
「いや、その……なんていうかドレスとかはプライドっていうかがな。一応、男なんで」
「あなたみたいな方が男とは、なにをおっしゃっているんですの!?」
このやり取りも久しぶりに感じるな。そう考えると、俺ってゲームで色んな人に絡みたいと思うことは多くても全然実行できないじゃん。
まあ、今はおいておこう。
「まあ、うん。もう説明もめんどくさいから、女子でも良いんでスカートが苦手な人と思ってくれればいいや」
「なぜ!? あなたほどの方なのに。でも、合点がいきましたわ。なぜあのリーフさんがスカートではないアバターの写真をとったのか」
「リーフの知り合い……って、プリンセスブランド繋がりでって考えれば当然なのか?」
「いえ、マチさんとは話したこともありませんわ」
名前だけ聞いたことあるマチさんはハブられているのだろうか。いや、でもリーフの言いっぷりは知り合いっぽかったしそんなことはないのか。というか、その答えは察しが良いな。
どちらにしても、本当に周りが勝手に呼び始めてできた称号みたいなものなんだな。
「それで、俺に何か用ですか?」
「わたくしのドレスのモデルになってほしいんですわ! 無論、ゲーム内通貨やアイテムではありますが報酬をお支払いたします」
「ちょっと、考えさせてください」
「えぇ、もちろん。なのでひとまずフレンド登録をお願いしたいのですわ」
若干お嬢様言葉が違和感出てる時あるけど、ロールプレイなのかな。
まあ、さすがにこれで素って言われても驚くけどさ。
俺はひとまずピアさんとフレンド登録を行う。見てみたらレベル自体はかなり上だった。
「では、良いお返事をお待ちしていますわ!」
そう言うとピアさんは忙しく去っていった。
「普通に断ればいいのに、なんで俺って考えさせてくれって言っちゃうんだろう」
文化祭以来、人の頼みに対しての壁が低くなっている気がする。なんでも安請け合いはしちゃいけないよな。