61 水底の遺跡
ティアの色が赤から普段の色に戻ったところで、湖に飛び込む。俺が先導しながら遺跡内部へと侵入する。
「ティア、水泳スキルの調子どうだ?」
「リアルでも泳げるから大丈夫よ。それより本当にモンスター出てこないわね」
「前の魚もレベル自体は低かったからな。水中で戦えるやつには近づいてこないんだろ」
「多分、そういうことよね」
この前はいったルートで遺跡の内部に入るのは簡単だった。
俺は今回はしっかり自らはいでて、遺跡の床を足で踏む。
「さて、ここからは初見だ」
「なんか、あのスライムの湖思い出すわね……水もところどころ水漏れ起こしてるから、イベントで水で内部が埋まるとかありえるかしら?」
「洒落にならないこと言うなよ」
「とりあえず……着替える? 着替えない?」
「……なんか今の会話がフラグで着替えにくいんだけど」
「そうね。今回は回避重視でいってみましょう」
「あいよ」
当初は装備をしっかりとしたものに変える予定だったが、そういうことになった。
槍は背中から脱いで、手で持って遺跡内を進む。あまり見栄えは変わらないけど、部屋のようになってる空間の広さはそれぞれ違う。下の階へと続く階段も丸見えになっていた。
「下は水没してないんだな」
「それ、嫌な予感しかしないわよ」
「だよなぁ……」
モンスターに襲われることはないが、水晶を置けそうな台座なども一切見当たらなかった。隠し扉だったら見逃してることになるが、ひとまず地下へと警戒を強めて降りることにする。
地下1階はなぞの光により問題なかったが、地下は真っ暗になっている。ティアがランタンをつけて視界を確保しながら進む。階段の先は小さいフロアになっていて3つ扉が存在する。
「石の扉、鉄の両開きの扉に、扉があったであろう長方形の吹き抜け……」
「両開きのが絶対にボスがいるならボスだし台座だと思うのよね」
「俺もそう思うんだけど……」
なんとなくは予想がつくが近づいてランタンで照らしてもらう。やはり大きめの南京錠で持ち手が引っかかるようになってる。無理やり動かせば隙間から中は覗けそうだが、暗いからそれをしてもさほど意味がない。
「しょうがない、探索するか」
「そうね……とりあえず、扉開くくらいならあそこからでいいわよね?」
「うん、俺もそっち行こうと思ってた」
さて、遺跡侵入は無事に成功したが、探索をしなければならないようだ。
俺たちは最初に扉がなんらかの理由でなくなった部屋へと足を踏み入れる。
少し狭めの空間になっていて、水滴が水に落ちる音が聞こえる。
部屋の中をまわるのに時間はかからなかったが、特に物は置いてなかった。代わりにさらに2つの扉がついている。
「木製の扉が2つ……」
「あきらかに人工のものよね」
「だよな……昔この島にあった何かの文明の跡? いやでもそうすると周りの島が水没してないのはおかしいのか?」
「ここだけ極端に立地が低くて雨でできた湖だとか?」
「山の上から川繋がってた気がするし、それは違うだろ……まあ、よくわからん。とりあえず開けるぞ」
ひとまず、ノブがあるので手をかけて勢い良く扉を開ける。そしてそのまま槍を構えて中に突入した。
ティアが部屋に入って光に照らされると、そこそこ広いフロアに足の折れた棚のなれ果てや地面に落ちている布が見える。布の形や置き方を見ると、大人数の寝床だったのかと考察できる。
「なんだここ……」
「ねえ、アキ。なんか聞こえない?」
「ん?」
ティアがそう言ってきて耳を澄ませるとたしかに、水とは違う音が聞こえる。部屋の中ほどまで移動してその主の方へと光を向けると、人型の骨がゆっくりと背中を反らせながら立ち上がっていた。
そして近くの、刃こぼれした剣を手に取るとこちらへと頭蓋骨の目の穴を向けて襲い掛かってくる。
数は見える限りで2体で装備も見た目もどちらも同じ。
「ティアは後ろにいろ。俺だけで十分だ!」
「そう思うけど、気をつけてね。レベル高い」
「え? マジで?」
言われてすぐに相手を確認する。
【スケルトン Lv21】
イベント中にレベルが上ったことをふまえても俺の戦闘的なレベルの平均は28前後だ。楽な相手だが、油断し過ぎたらまずいという感じで――俺の知ってるスケルトンはこんなにレベルは高くない。
つまりはイベント専用か、俺が現在進んでいるところよりも深めの場所に存在するスケルトンがここに現れているということになる。
動きも少し複雑で、ヒットアンドアウェイと言わんばかりに剣を振り下ろしてはバックステップしてくる。回避も槍でいなすのも空間があるため簡単だが、2体が交互にくるから鬱陶しい。
「よいしょぉ!」
俺はタイミングに慣れたところで片方のスケルトンが剣を振り上げた瞬間に腹に石突で攻撃する。たまらずスケルトンは後ろに吹き飛んだ。
一撃では倒せないものの、コンビネーションが崩れたところでさらに攻撃を仕掛けて一体を撃破。後の一体はタイマンならこちらの圧勝で終わることは言うまでもなかった。