54 合流と姉妹
広場へと向かう途中のことだった。
森の中がこの前とは変わった雰囲気になっている。
「ところどころの木が傷だらけになってますね」
一番森へと来ることが多かったミドリがそういう。やっぱりそうか。
森の中の木に引っかき傷や、皮がめくれるような大きな傷、さらには明らかに折れたわけじゃなく切られたような断面の枝などがそこかしこにある。
「モンスターの暴走ってこういうことなのね。どこから襲われるかわからないわ」
この森の道だと、俺とティアは槍とハンマーという武器の性質上動きが制限されてしまう。そうなれば、ミドリとリーフの魔法が主体になるわけだ。
「まあ襲われないことに越したことはないんだけどね」
「そいつはその通りだけど、そうも言ってられないイベントってことだろ。ひとまず、警戒しつつ急ごうぜ」
俺はそういって前進をうながす。原因の解明っていったって、とんでもない原因だったりする可能性もあるわけだしな。
警戒がよかったのか、はたまた運が良かったのかモンスターに出会うことはなく広場へとたどり着くことができる。そこには木でできた小さい小屋とテントがいくつも立てられていた。
プレイヤーもちらほら見える。
「じゃあ、各自情報収集ってことで、話を聞いてみるか」
「わかったわ。ひとりこの前遺跡の時に一緒になった人だから、聞いてみるわ」
「じゃあ、わたしはあちらの方に」
「あたしはどうしようかな……とおもったけど、あたしの店のお客さんいたから聞いてくるね」
全員にやってほしいことを簡潔に伝えたら動いてくれた。むしろ、俺がどうするか悩みどころといったところだよ。
ひとまず小屋の近くに立っていた盾と剣を装備している少女に話しかけてみることにする。
「あの~」
「は、はい。ってあれ、ここらへんでは見かけませんね。どうしたんですか?」
「いや、イベントクエストがあったから、戦闘力低いパーティーでここにきてみたんだけど、今どんな状況か聞きたくて」
「今、ですか……といっても、朝にクエストがきたばかりなので、まだほとんど情報はないです。そろそろ、私のパーティーは戻ってくると思いますが……一応ここには戦闘系パーティーが固まっていたので」
「あ、そうなんだ。ありがとう、えっと……」
「ヒノカです」
「俺はアキだ……じゃあ、ちょっとみんな戻ってくるまで一緒に待たせてもらってもいいかな? 何かできることあれば手伝うけど」
「は、はい……RPですか?」
俺が『俺』という言葉を使っていることを疑問に持ったのかそう聞かれてしまう。
「あ、いや、これはちょっと色々あって、俺は――」
信じてもらえないと若干諦めてる自分を感じながらも説明しようと思ったその時だった。
「きゃあああ!!」
「うおっ!?」
何者かに悲鳴と共に猛突進で抱きつかれて地面へと倒れるはめになる。というか完全に押し倒されたみたいな状態になってる。
「きゃっ!? あ、ナツおかえり……っていきなり何してるの!」
今、ナツっていったか。いやまさか名前なんてよくかぶるしな。俺はそう思いながら、自分に突進してきた人物を確認する――紛れもなく俺の妹のキャラにしか見えなかった。
「かわいい! お姉ちゃん、かわいい!」
「お姉ちゃんいうな! というか、降りろ!」
「あぁ、もうおもったより長いんだもん。お姉ちゃん分補給するから2分好きにさせて」
「リアルでそんなこといつもしねえだろうが! ちょっと、ヒノカちゃん助けて!」
「ナツ! アキさん困ってるから、離れなさい」
「あぁ~、ヒノカちゃん。なつの邪魔をしないでー!」
どうにか、ヒノカちゃんのお陰で、一命を取り留めることができた。
「ナツの知り合いだったんですね」
「ま、まぁ……うん」
「リアル姉!」
「姉じゃねえ……といいたいけど、とりあえず今はいいや」
「そういえば、なんでここにいるの?」
「イベントクエスト乗り切るのには辛いパーティーだったからな。手伝いつつ守ってもらえればいいなと思って」
「あぁ、そういうことだったんだ! なつたちはおっけい!」
「まあ、そんならひとまず情報交換といこうか……みんな集めるからまってくれ」
「そういえば、ナツ。みんなは?」
「お姉ちゃん見えてからダッシュしたからすぐくるはずだよ」
お前の視力は一体どうなってるんだよ。だけど、まあ知り合いのパーティーに出会うことができたのはよいことだった。
俺はひとまずティアたちにも押し倒されたこと以外は伝えておくことにした。3人が他の人に聞いてもやはり情報収集にでていったばかりだということらしい。
ひとまずナツたちのパーティーとの顔合わせを済ませてから今後の方針を話し合うことにした。