34 アップデートと新要素
時間はどんどん進んで、アップデート当日となった。
今日は日曜日だが、土曜の昼から30分前まで行われていたかなり長いアップデートで、それゆえにインストールも時間がかかる。
現在はインストール完了を待っているところだ。PC画面にはインストール終了までのあてにならない残り時間と、複数人のチャットルームができている。
ルームにいるのは夏海ちゃんに智愛と翠花と隼人だ。
『みなさん残りどのくらいですか?』
『隼人選手は残り10分だけど、3分たっても10分から変わらないあたりよくわからないぜ』
『私もそんな感じよ。残り12分で停滞したわ』
『俺もそんくらいだ』
『夏海選手。そもそもまだ残り20分表示でーす!』
隼人から悪い影響受けてそうでなんか心配になる。
その後も特に意味がなにかあるという会話もなく時間を潰して、だいたいみんな同じタイミングでインストールが完了する。
『終了! 装着! 隼人いっきまーす!』
『私もいってくるわ!』
『みなさん元気ですね。まあわたしも終わりましたので』
『なつもいくよー!』
『報告せんでも別にいいんだぞ・・まあ、そんじゃ、またゲームで』
全員がチャットルームからログアウトする。そして、アリアンをつけてベッドで寝転がりいつものように電源を入れた。
***
スタート画面等は特に変わらずいつも通りにログインは行えた。
「お、これが満腹度か?」
視界に広がる表示の中にひとつ項目が増えている。これらはログインの瞬間等は表示されて、その後は自由設定できる。俺の場合は念じたときと、一定以上に減った時に設定している。
ついでにすぐに多数のメッセージが飛んでくる。
まず最初にナツからのメッセージを開く。
『早速、狩りいってくるけど、お兄ちゃん一緒に行く? パーティーはひとり枠空いてるよ!』
さらにファルコから。
『スキルとかアーツが増えたり修正入ってるな。早速、色々とテストに今までいったフィールドの変更確認に行くけどどうだ? フェンスとカタタも一緒だ』
最後にティアからだ。
『派生スキルが増えて、作れる幅と同時に必要素材が増えているわ。ひとまず、インゴットとか新しい鉱石の採取に行くけど一緒にどうかしら?』
さて、俺の体はひとつしかないんだけど、どうするかな。
まず夏海ちゃんにはひとまず断りを入れておく。アップデート後の攻略で、ワクワクしてるところに初対面が混ざって微妙な空気になるのはお互いに良くないと思うしまたの機会ということでな。
そんで、ファルコだが、俺は武器が新しくなってからまだ練習中だったりするから、ガチ目な攻略やフィールドワークはちっと難しいので断る。
消去法でティアの手伝いになるけど、ティアの鉱石とかも俺が行く必要があるのか微妙なところなんだよな。
「よし、それぞれ頑張ってくれってことにしよう。今日は俺も最初は自由にさせてもらう」
ティアにも少し見たいところがあるから、見てから決めると連絡を入れておく。
あながち嘘じゃないからな。
そして俺はその目的地へと向かうことにした――センターシティ近くの初心者向けでもある林フィールドだ。
林フィールドへと向かう途中に新たな空き地地帯ができていた。NPC等も増えて話しかけてみる。
畑の近くで立っているクワを持った老人農夫NPCだ。
「こんにちは」
「こんにちは、冒険者さん」
「こんなところで何してるんですか?」
「この辺の空き地の買い主を探しておるんじゃよ。ここの他にも土地をもっておるが、そろそろ1人で管理するのが難しくてな」
「そうなんですか」
「冒険者さん1ブロックどうじゃ?」
「いまは、ちょっと空き地が必要になる予定などもないので」
「そうか……残念じゃ。気が変わったらまた話かけてくれてもええんじゃよ」
「そうさせてもらいます。もしも、困りごとなどがあったら気軽に言ってください。お手伝いできる事ならさせてもらいますから」
「ありがたいのう……それなら、早速ひとつ頼めないかのう」
「なんでしょう?」
「畑の肥料を作りたいんじゃが、材料が足りないんじゃ。近くの林でとれるから集めてきてくれないかのう」
農夫がそう話すと、パネルが現れる。
【クエスト発生 畑の心得・初級】
スキルとかの特殊クエストみたいな名前だけど、なんか畑で新要素が増えたのかもしれない。今まではいなかったNPCだし、受けられそうだから受けてみよう。
「わかりました。材料を教えて下さい。少し時間はかかるかもしれませんけど」
「それは構わんとも。それじゃあ、お願いできるかの」
そういって1枚のメモが渡される。
薬草・解毒草・魔力草――今までも林で取れた草系のアイテムばかりだ。ただ、ひとつだけ見覚えのないアイテムの名前がある。新しいアイテムかレアなものかもしれない。
これはいい情報を手に入れたかもしれない。
俺はクエストを受注すると、農夫に見送られながら林に向かって駆け出した。