18 粘液と新防具
プリンススライムとの戦闘が始まって、7分が経過した。
作業が終わるというティアの言葉を信じればあと3分粘れば、2体1になって状況はまだましになるはずと思いながら戦っている。
ここまででわかった敵の動きは体当たり――ただし体がでかく当たり判定も広くて厄介だ。粘液飛ばしもしてくるが、武器で受け止めればバッドステータスを受けるので回避が必須になってくる。
対して俺の攻撃は槍のよる突き・打撃・若干強引な斬撃――すべてスライムの体には効果は今一つでHPを削り取れない。属性とかをつけられればいいが、そんなアイテムも魔法も俺はとっていない。そもそも魔法のスキルをひとつとしてもっていないから当たり前だ。
「とおぉっ!?」
スライムの体当たりを勢い良く横っ飛びで回避する。そこで、何かスキルレベルアップの音がなった。
「攻撃受けてないし生産もしてないし攻撃もしてないぞ!!」
思わず口に出して叫んでしまうが、音の後にでてきた文字は【跳躍】のレベルアップという文字だった。
「【跳躍】ってそういうこと!?」
横っ飛びの緊急回避とかでレベルが上がるものだったのか。つまりは回避の無敵時間が伸びるとかそういう効果があるのかな。
そんなことかんがえてる暇はないようで、飛ばしてきて粘液を回避しようとしたその時――
「うぇっ?」
足元の水たまりに気づかずに思いっきり滑って転ぶ。そのまま粘液も直撃した。
「うえ……ねばねばする」
確認すると当たり前だがバッドステータスがそこかしこで起きている。ただHPは全く減っていなかった。
「運営、絶対嫌がらせでこいつの技決めただろ!?」
見た目かわいいし人気出そうと思ったが、嫌いなモンスターランキングに載る候補だよ。
そしてバッドステータスを払う方法をさすがに思いつかない。少しだけならさっきみたいに水で吹き飛ばせるんだけど。
「よっし、終了したわよ!! って、きゃー!!」
「こういう時だけ叫ぶな!」
「だ、だって、なんかもう色々と溶けて」
結局為す術もなく、スライムの追撃をかわしつづけていた俺だったが、その間に少し粘液が吹き飛んだ。
そして、今の俺は初期装備で着ていたらしい女性下着と、服だった布切れ少しに槍の刃と少しの部分を残したもはや短槍といえる残骸を持っているだけの状態だ。
下着だけは粘液が当たっていなかったのか、ゲームシステムなのか無傷なのが幸いだが、自分のゲーム内の体が女だと実感させられるから今まで脱いだことなど一度もなかったので、複雑である。
「ていうか、そんなこというなら胸隠すんじゃないわよ!」
「……無意識にしてた。とりあえず、逃げるか魔法つかってこいつどうにかしてくれ。物理全く効かない」
「【ファイヤ・エンチャント】【アークブレイク】!!」
岩から降りてきたティアの攻撃はある意味で一方的だった。一撃が重いのもあるだろうが、炎をまとったハンマーがスライムをまるで餅かのように叩いていく。
HPはやはり属性がついているのが理由か、普通に減っていく。そして数分でスライムは倒れた。
「はぁ……はぁ……」
「お疲れさま」
「はい! これ!」
「うん? ……うい」
戦闘が終わるとティアはドロップ品よりも先に俺の方へやってきた何かアイテムをわたしてきた。確認すると衣装アイテムだったのでありがたく受け取っておく。
アイテムインベントリから操作して、外に出してみるが不便なことに体に着た状態ではでてきてくれなく、手の上にのせられるように現れた。
作業着のようなパンツとタンクトップだった。正直、スカートとか渡されても困ってたのでありがたい。
「アキ! 着終わった!?」
「着終わったからこっち向いてもいいよ」
「それよりそれならこっちきなさい」
「うん?」
呼ばれるがままにティアのいるスライムの死体の近くにいくと、とどめを刺したわけではない俺もドロップ品を取れるようになっている。
「一応、レイドボス扱いだったみたい。もしかして、一定レベル以上とかの複数人がくると出現ってタイプかしら」
「今まで1人できてたんだもんな」
「そういうことよ。まあとりあえずとっておきなさい」
「おう」
俺もドロップ品を取ってみる。するとアイテムの中に名前がキラキラとかかったエフェクトのものを手に入れる。
これはレアドロップの証拠だ。
「マジか。何もしてないのに」
「どうしたのよ?」
「レアドロきた。【ブルーゼラチンの塊】とかいうそのまんまのものが」
「それ、多分衣装とかじゃないと使えない素材かしら。聞いたことないし」
「特に効果は……わからん。素材の効果ってやっぱり?」
「薬草とかポーションみたいな回復とか以外の加工して初めて出る効果は、加工できる人間じゃないとわからないわ」
「とりあえず、しまっておくか……あ、これあとで返すな」
「いいわよ。どうせ安物だったし。それより防具も武器もあんたなくなっちゃったじゃない」
「……まあ防具はお前の楽しみにさせてもらうわ。武器はNPCのショップで安いのでも買ってその場を凌ぐ」
「……やすいのにしておきなさい。ちゃんとまとまったお金渡せば、いい槍作ってあげるわよ」
「了解した」
そんなことで、俺とティアの冒険は幕を閉じた。なんで俺がヒロインみたいなポジションになっちゃってるんだよ。
***
数日後のことだ。夏休みももうすぐ終わり学校が始まるある日のこと、ゲームを1日中楽しめるのもそろそろ最後だと思いながら俺はティアのもとへと向かっていた。
ちなみに服に関しては一応、デザイン性は微妙といいきれるクエストで手に入れたやすいジャケットを着ながら、タンクトップやパンツは貰ったものを着ていた。
「遅いわよ」
「ごめんって、それで今日はどうしたんだ?」
「防具が完成したから呼んだのよ。ほら、装備してみなさい」
そう言ってトレード画面を開いて、ひとつの防具を渡される。
【クリスタルメイル】
衝撃耐性・小
「防御力高いな……って初期防具と比べたら当たり前か」
「それはそうよ。スライムの素材も使ってみたら衝撃耐性がついたわ」
「いいのか?」
「こっちも使ったことない素材つかってレベル上がったからいいわよ。悪いと思うならこれから私の店をご贔屓に」
「そうさせてもらうよ」
防具は装備欄から着れば自動で装備される。鎧の着方なんて普通はわからないという配慮なんだろうな。
「あ、そういえば、アキ。少し調べてみたのよ」
「何をだ?」
着心地を少し調整しながら話を聞く。
「あの粘液の破壊って上半身に関しては下着にまでいくらしいわよ。下については完全防御ってかいてあったけど」
「検証班何してんだ……」
「まあだからこの前は運が良かったわね」
「そりゃどうも」
男と女の会話なはずだが、ゲーム内だからかそれとも長い付き合いだからか恥ずかしさはそこまでないんだけど、いいのかな。
「おっし、装備完了。悪くない」
「それならよかったわ……それで、アキ。今日の予定は?」
「これからファルコ。あ、まだ会ってないか。隼人に誘われててな。男2人旅してくるぜ」
「そう、まあ気をつけなさいよ。バッドステータスで時間を無駄にしたくなかったらね。私は今日は店にほぼいると思うから」
「おう。そんじゃ、防具ありがとうな! またあとで!」
「いってらっしゃい」
俺は店に背中を向けて槍を担いで集合場所へと向かう。気づけばすっかりとゲームにはまっちまったな。
さて、新たな防具の初お披露目と行こうか。
第1章終了です。
第2章は早ければ明日の朝ですけど、遅くとも明後日には始められるように頑張ります!