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ひまわりノスタルジー

作者: さすらいのかえる

「はぁ…大体こんなもんかな。」

僕は思いダンボール箱を幾層にも積み上げる。

18年間力仕事を極限まで避け続けた僕には、とてもじゃないが辛かった。

腕は震え、息が上がっていた。

しかし、残念ながら休んでる暇は無いのだ。

___だって僕は今日、上京するから。

あと数時間後には、ちょいと辺鄙なこの町から、遠い遠い東京へ行くのだ。

上京は大学進学の為だった。

ただでさえ興味のあるものが無かった僕は、県内の大学には行きたい学科がなかった。

そこで進路指導の先生や母さんと色々考えた結果、東京の国立大学がベストということになった。

あんまりしたい事も無いままだったけど、その中でもまだ興味があった文系の学科に進むことにした。

大学へ行く為に結構勉強した。

何せ国立大だし、生半可な勉強量じゃ敵わないからね。

それでも、なにかに打ち込むわけでもなかった僕には、さほど問題はなかった。

目指すものも無し、高い志も無し。

趣味はありきたりにゲームだし…。

やりたい事が無いことが、ずっと悩みだった。

ただ、こんな僕も大学には多少なりとも期待を抱いていた。

『知らない世界で一体僕はどうなるんだろう?』

不安感と、妙に現れた期待感が綯交ぜになり

不思議な心持ちで、いよいよ上京前日を迎えた。

一昨日から本腰をいれて片付けをしていたけど、まぁ少しばかり間に合わなかったんだ。

だからそんなに物は多くなかったが、黎明の朝六時、半徹夜気味で片付けをしていた。

まぁだいたいめぼしいものは片付いた…かな?

次は戸棚か…。

埃っぽいその中には、滅多に使わない物しか入ってない。

まぁそんな必要なものは少ないだろうし、適当にしておこうかな…

「あれ?」

そう思った矢先、重たい段ボールの後ろっ側に怪しいアルバムを見つけてしまった。

なんだこれ?

こんなアルバムあったっけな??

母さんが持ってたような気もするけど…どんなやつだったっけ。

フェルト地の黄色い表紙にはシミがあった。


僕はアルバムを開く。


「うっわー!懐かしいぃ…!!」

僕は思わず歓声を上げた。

アルバムの中には、大層昔の僕の写真がどっさりあった!

こんな昔の写真をよくもまぁ置いといたもんだ…。

僕は軽い気持ちでパラパラとページを駆ける。

朝の陽と徹夜明けのテンションが火花を散らしながら、陽光に黄色い部屋の中、僕はノスタルジーに浸りたくて、アルバムを捲り出した。

始まりは幼稚園生、もう十三年も昔のことだった。

まず出てきたのは、砂浜でお城を作っている写真だった。

白く乱反射した砂浜に、赤いスコップ片手にカメラ目線にばっちりと、幼い体で精一杯のピースを決めている。

満面の笑顔がとても楽しそうで。

…きっと最高の気分だったんだろうなぁ。

良いなぁ。自分事だけど羨ましいなぁ…。

海なんて最後に行ったのいつだろう??

もう何年も行ってないな。

波の音はすっかり消え去り、風化している。

夏の香りはもう覚えてないや…

…僕は掛け替えのないものを忘れているのかもしれない。

そう考えると途端に怖くなってきた。

次から次へと写真は時を巡る。

その中で笑ってない僕は居なくて。

未だ溢れる想い出に脳内を焼かれる。

若干色褪せてしまった写真の中、昔の僕は笑っていた。

写真の隅に書かれたデジタル日付は、もう忘れきった過去の物。

今、漠然と焦燥感に襲われている。

傷心を貪り、パラパラとページを消費する。

何ページか進んだところに、小学三年くらいと思われる写真があった。

大輪のひまわりを抱いて、いかにも悪ガキみたいな笑顔で写っていた。

きっと夏休みの時に撮ったんだろうな。

…あぁ、この時は本当に良かったなぁ。

何もかもが楽しかったんだよな。

友達と行った、安い市民プール。

お小遣いなんて概念が無い僕らには、とても嬉しくて優しい場所だった。

あ、そういや昆虫採集にも行ったなぁ。

暑くなる前の朝によく活動するからと、朝早くからセミ取りに行ったっけ。

暑い暑い夏の日、近所のおじちゃんがくれたソーダ味のアイスキャンデー、美味しかったなぁ…。

夏休みの宿題、朝顔の観察日記は面倒だったけど、気づけばそれも思い出になっていた。

何だかんだ1年楽しんでたけど、やっぱり夏生まれの僕は、夏が好きだった。

毎年夏が来るのが楽しみで、六月くらいからウキウキ浮ついていた。

七月終盤の誕生日は、本当待ち遠しくて楽しいものだった。


…それも、小学生までの話だったけど。


いつからだろう?

何もかも大して楽しくなくなったのは?

子供じゃなくなったのは?

受験戦争に巻き込まれだしたのは?

もう誰にも守ってもらえなくなったのは?

『未来』という言葉を失くしたのは?


…それが何年目かも、もうわからない。


中学高校、惰性でダサい毎日。

激増したテストに、重くのしかかる未来の進路。

その一つ一つが、何の断りも無しに僕の未来を勝手に決める。

日々は空っぽでカラカラに乾いた面を引っさげて僕を蝕む。

僕は夏が嫌いになった。

そして、歳をとるのが怖くなった。

小学生時代、可愛らしいおまじないに夢中だった女の子達は、不毛な恋愛話と化粧に溺れだす。

男子は寄ってたかって修学旅行の夜の痴話。

あの子は可愛い、あの子を手に入れたい。

下世話な大人の真似事。

全てが一気に変わった。

いきなり、本当いきなり皆大人になってしまった。

僕は戸惑って、必死に抗った。

どうしても思春期を受け入れきれなかった。

大人になる階段、その全部が汚らわしく見えてしまったんだ。

陰鬱で仕方ない毎日を過ごした。

ただ無気力に日々に流され、大人になるため皆より1本遅い列車に乗った。


レールは果てしなく続く。


降りるべき駅もわからず、今に至る。

幸い、大学は国立大学に通った。

皮肉にも、レールに乗ってればある程度成功するということを身を以て体験した。

ある意味では、所謂『勝ち組』の人生に近づいたかもしれない。

それでも僕は、ずっと満たされない心を持って生きている。

…あぁ、やりたいことを見つけるべきだった。

無気力なんかに浸るんじゃなかった。

好きなものを見つけるべきだった。

何かに没頭すればよかった。

没頭し過ぎて色々蔑ろにしてしまうのも、ある意味良い経験だっただろうになぁ。

でもその当時は必死に生きていたんだ。

そうするより他無かったんだ。

だってその結果が今の僕だから。

勿体なかったなぁ、本当もったいないよなぁ…だって、もう青い春は二度と来ないんだから。


…なかなか、酷い後味だな。

気づけば僕は俯いていた。

思い出せば出す程、悲しくなる。

それでも時間は悲しみに浸ってる僕をよそに、あぁ尚も非情に過ぎてゆく。

こつこつ、出発の時間はやって来る。

そろそろ、アルバムは終盤にさし掛かる。

…ここまで来たんだ。

最期まで、少年時代の僕を看取ってやろう。

僕はまた、アルバムを捲り出す。

ここまでくるとアルバムの僕も、だんだん今の僕に近づいてくる。

…これは小学六年生くらいかな。

うわ、何故か真顔で写ってるよ…。

あぁ、そういや写真に映る時ですら、なかなか笑顔は作れなかったっけ…。

嘘でも笑えねぇよって、悉く笑うことを拒否していたな。

今は全然そんなこと無いんだけどなぁ。

あー…今からすれば酷い黒歴史だ。

でも、黒歴史って笑い飛ばすにはまだちょっと掛かりそうだ…。

…それじゃダメなのか?

いいや、それでいいだろう。

悩んでもがいて、それでも頑張って生きてる。

それが、等身大の僕なんだよ。

僕はもう一度、少年時代のあの夏に行きたい。

何も包み隠さずに笑いたいんだよ。

タイムスリップはできない。

でも、思い出すことはできるだろう?

今を自分で楽しくしよう。

昔の僕に胸張って顔を向けれるように。

ねぇ、ほら、心機一転するんだ。

今から僕は知らない土地に行く。

不安で仕方ないし、知ってる人は誰もいない。

だけど…ある意味しがらみは一切無いんだ。

大学に行って、どれだけ大事なことを学べるかは、まだわからない。

それでも僕は、学びながらでももう一度考えたい!!

ねぇ、今からでも遅くないだろう?

僕の考えに、もう誰もケチをつけれない。

心底楽しいと思えるものをみつけよう。

鈍ってしまった僕を起こす。

少年時代みたいに上手く笑えるようになろう。

次の舞台は東京だ。

さぁ、新しく冒険を始めようぜ!

__外で重く軋むトラクターが止まる音がする。

遂に引越し業者が着いたようだ。

いよいよタイムリミット、次の次元へ。

アルバムはついに一枚もなくなった。

何だかんだいって、アルバムの僕は最期まで全力で生きていた。

僕はアルバムを閉じる。

何が待ってるか、何を手に入れるか。

何も保障されちゃないけど、さぁ行こうぜ!僕の新天地へ!!

もう腐っちゃらんない。

十数年あまり生きてきたこの部屋ともお別れの時が来た。

ここに息づく少年の香。

それはもうすぐ思い出の香になる。

部屋は随分殺風景になっちゃったけど、ここに、ひまわりを抱いたあの笑顔の僕がいるような気がして。

昔の僕に顔を向けよう。

「いってきます。」

改めて決意を口に出す。

朽葉色の部屋に、黄色のひまわりが揺れていた。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます!!

第三作目です…!

最初の話を投稿してから1年が経とうとするみたいです…早すぎやしませんか。

それよりもなによりも、まだ2作しか投稿してない事実が怖いです。

前作からもうネタ的には5個くらい書いてたのに一切最後までいってない…

話のタネを形にしきれてなさ過ぎですね…。

余談ですが、この話の始まりは、所属しているクラブで部誌を出すことになった際、それの表紙を描いている最中に何となく思いついたものを書き出していたものでした…。

それが思いの外かなりの文料になったので、ここへ載せることにしました!

この主人公の男の子、名前は一幸くんと言います。

名前出す場面が無かったんですがね…

∩( ´;ヮ;` )∩

一幸くんごめんなさい_(._.)_ 

次は恋愛モノを書きたいと思ってます!

これを含め三作品全部似たような感じだったので…!

もっと色々なジャンルを書かなきゃなりませんね!!( ᐛ )و

今回もここまで読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!!٩(ˊᗜˋ*)و

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