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「純司の誕生日会と、養子当主の闇(中編)」

後白河は完ぺきに覚えた騅であったが、後鳥羽は見る時間が無くうろ覚えの状態。

果たして問題なくパーティーを終えられるのか……?


2000年4月12日

後醍醐家本棟2F 大ホール前

後醍醐 騅



 僕と詠飛兄さんは大ホールの前で、執事のウェポンチェックの順番待ちをしていた。

でも、大ホールでの誕生日会っていかにも豪華そうなのに、出席者は皆ラフな私服を着ていた。

「詠飛兄さん。どうして、みんな……僕もですけど、スーツじゃないのですか?」

「傑が聞いてくれたんだ、純司にな。フォーマルか、ラフか、どちらがお前の服の好みか、とな。」

「え!? それで、招待状もラフでって……。」

「そうだ。まぁ少し直接的な質問だったと思うけどな。」

と、笑顔で見下ろしてくる詠飛兄さんは、後白河家の誰よりもカッコ良かった。

でも、ふとジャケットのポケットを見やると――

「は、はぁ……。あ、詠飛兄さん! それは……!」

「ん? あぁこれはダミーだ。それに正直言うと、銃は扱えないんだ。」

と、ダミーの銃を手で弄びながら言うと僕に手渡し、僕の目線までしゃがんで、

「でもこれは警報銃だ。万が一、騅の身に危険な事が迫ってきた時、それを相手に向け引き金を引きなさい。そうすれば、俺の携帯に信号が送られ、俺はすぐにでも騅の元に飛んでいける。」

「すごい! 詠飛兄さん、飛んできてくれるの!?」

「……比喩だ。」

「え?」

「ほら、次は俺たちだ。」

と、言い終え立ち上がるとやっぱりカッコ良いけど、少し耳が赤くなっている詠飛兄さんは先に俺がやる、と付け足して言った。

その後僕も勿論チェックされたけど、ダミー銃については執事から笑顔が返ってきただけだった。



後醍醐家本棟 大ホール

後醍醐 騅



 後醍醐家が誇る大ホールは別棟図書館で読んだことのあるドイツ建築の本に載っていた、シャルロッテンブルク宮殿大ホールによく似ていた。

だが天井はゴシック建築らしい尖塔型になっていて絵が無い代わりに全体は白地で、装飾は金糸っぽいアラベスク模様の彫刻であった。

 ふと床に目をやると、床を覗く自分の姿や顔がくっきりと写し出されていた。

「すご~い……!」

と、思わずホールを何度も見回し感動していると、詠飛兄さんは僕の手を引き写真で見た後白河家の人たちの方へ歩いて行った。

「お久しぶりです、後白河家の皆様。」

と、詠飛兄さんが一礼したので僕もつられて一礼した。

「お~! 詠飛ちゃん! 相変わらず、何というか真面目ちゃんだね! おっと、この子は?」

と、長男である後白河翔が僕の方を見てきたので、他の3人にも聞こえるような声で軽く自己紹介をした。

「ふーん、興味ない。」

と、僕から目線をすぐに外したのは次男の颯汰。長男の真面目版の人。

「詠飛さん、お久しぶりです。」

と、僕を見向きもせず詠飛兄さんの左手を両手で包み込むように握る三男の紳稲は、詠飛兄さんの話に相槌を打ちながら、全身をくまなく見ていた。

 特に、左手の薬指を何度も。

するとふいに頭を誰かに撫でられたので、ゆっくりと目線をあげていくと、浅黒い肌から覗く大きな目と目が合った。

「よっ、坊主。四男の信風だ、よろしく! お前、野球は好きか?」

「えっ……と……巨人が好きな――」

「そうそう! よく知ってるなぁ! 坊主、じゃないや、騅。資料を読んだんだけどな、俺と同じ4番目じゃんか。お互い家のことは気楽に考えてこうぜ!」

と、ニッと歯を見せ笑う信風。そう言えば少し『名探偵コナン』に出てくる、服部平次に似ている。

「は、はい!」

と、僕は快く返事をしてしまったがよく考えたら、この人達と戦うんだよね……?

 そう思うと僕の心の中で、何か黒いものがぐるぐると回る感覚がして、身体の芯の方から全身がどんどん冷えていく感覚にも襲われ始めた。


 すると後ろから誰かに肩をたたかれ、振り向くとそこには――

「お前が噂の金髪養子か。」

と、言う……誰だっけ? えっと、金髪で短髪の後鳥羽家の人……えっと……

「きんきら?」

「は? あのな、お前もだから。よく覚えておけ。俺は後鳥羽家第7男児、後鳥羽 (りょう)だ。」

と、睨んでくる龍くんは僕よりも少しだけ背が低い。見たところ、金髪は地毛では無さそうだ。

「あ、そうだ! Gold dragon!」

「まずまずの発音だ。」

と、何度も頷く龍の後ろには僕よりも数十cm高い男が、僕に向かって笑顔を向け、唇に人差し指を当てていた。

すると次の瞬間、その男は力任せに龍の耳をぐいっと引っ張った。

「いっ……! うわっ。」

「うわっ。じゃねぇし。紅夜(こうや)兄様だろ~? それと、騅くんか! そうそう、聞きたいことがあったんだ。」

と、男改め、紅夜さんは僕に満面の笑みを向けてきた。

「は、はい。」

「君の血液型が資料に書いていなかったのだけど、武士と同じA型でいいの~?」

と、紅夜さんは首をかしげるが、僕もそれだけは詠飛兄さんに教えてもらえなかった。

その旨を伝えると、紅夜さんは頷いていたが、龍くんは短い金髪の頭頂部を乱暴に掻き僕の胸倉を掴んだ。

 その時の龍くんの目は後醍醐家や後白河家の人たちとは違う、何て言えばいいのかな……黒目の奥の方に飲み込まれていきそうな印象を受けた。

「A型じゃないな?」

と、龍くんは突然僕を睨んできた。自分でも何型かなんて気にしたことがないから、何と答えて良いかわからなかった。

そんな震え上がりそうな僕を見かねた紅夜さんはぐい、と龍くんを自分の方へ退け、

「悪いなぁ~、騅くん。でも、多分A型じゃないね。まぁ後で武士に聞いといて。今武士さん、男好きに捕まってるし。パーティーの主役も準備中らしいしさ、後でいい。本当に。」

と、紅夜さんは作り笑顔で手をひらひらと振り、龍くんを残し立ち去って行った。

その背中に僕は何となく、お疲れ様と言いたくなった。

「武士さんって――」

「詠飛さんのことだろ?」

「あ、そっか! そう言えば後鳥羽家の皆さんは、A型なんですか?」

「あぁ。ちなみに後醍醐も、お前と明以外は、A型と明記されている。ちなみに、後白河家は当主以外、全員B型だ。俺はあいつらみたいな、何というかな……適当すぎる奴らが嫌いなんだ。」

と、語る龍くんには確かに紐が常にピンと張ってあるような印象を受ける。

それに比べさっき話した後白河の人たちには、誰とでも話せそうな印象を受けていた。

「でも皆さん、気軽に話しかけてくれましたよ?」

「それが嫌なんだ……まぁいい。そう言えばお前はどうやって後醍醐に?」

「えっと、詠飛兄さんに拾われたみたいです。」

と、呟くように言うと龍くんは鼻で笑った。

そして、独り言で何かを言いながら僕の方を何度も見て頷く、を歩き回りながら何回もやっていた。


 それが数分続いたその時、龍くんはポンと握った左手で右手の手のひらを打ち、

「ほう。そうだ、養子のお前に面白い話をしてやろうか?」

と、含み笑いで言う龍はどこか僕を試すような目つきだ。

「え?」

「旧御三家の話だ。鳥羽、大河、黒河家が御三家だった頃、現在の後醍醐家系の大河家は跡継ぎに恵まれず、泣く泣く養子をとった。そしてその子はやがて大きくなり、当主となった。」

「今の……僕?」

「そうだ。まぁ、後醍醐家は恵まれてない訳ではないけどな。その大河家第9代目当主は、一夜で滅んだんだ。」

「一夜……? 滅ぶ?」

「あぁ悪ィ。継いだその日に死んだんだ。元当主によって、な。」

「え……?」

「それに養子当主ということで、他の2つの家からはかなり睨まれたし、物資の支援から友好関係まで、全部白紙にさせられたんだ。その上政府からは見捨てられ、大河家は無かったことに、継いでからたったの数時間でなってしまった。……わかるか? 騅。養子当主は継いだその日に、全ての苦労を白紙にしちまう、危険な当主なんだ。」

「……それって――」

「まぁお前は4番目。その運命を背負うのは、5番目の明だ。」

「後鳥羽としては、明が継いだところで継いだその日“には”見捨てはしないよ。クフフ……またな。」

と、龍くんは一方的に語り口元を歪め、いつの間にか去ってその姿は見えなくなってしまった。


 養子当主…………泣く泣く養子をとった…………

もちろん気になって調べたけど、養子っていうのは血の繋がっていない子ども。

それってつまり、僕や明のこと…………ど、どうしよう……?

僕たちは後醍醐家を壊しちゃうんだ。

全部、泡になっちゃう!

日記を書いている間に居なくなっちゃうってこと……?

それ、は、もう、二度、と、戻ら、ない、の……?

と、考えている内にどんどん風景がぐるぐる回転していって――



 「――騅!―――騅!!」

遠くの方で、詠飛兄さんが呼んでいる。

僕は、どうしたらいいの?

ご意見・ご感想等、お待ちしております!


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