「純司の誕生日会と、養子当主の闇(前編)」
光明寺家四男の誠と仲良くなった騅。
しかし、光明寺家と後醍醐家は何百年前から仲が悪い。
だがそのことを考える暇もなく、御三家の思惑が垣間見える純司の誕生日パーティーが始まろうとしていた。
2000年4月12日
後醍醐家 詠飛兄さんの部屋
後醍醐 騅
今日は純司兄さんの誕生日ということで、純司兄さん以外の兄弟たちが部屋に集められた。
というのも、今日は大ホールで御三家を集めパーティーをするそうだ。
今まで何百年と中止され続けてきたらしいのだけど、今年は純司兄さんに限ってやることになったとか……なんでなのだろう?
大ホールは初めて本棟に来た時に、一番気になった2階の中央にある大きな扉の先にあるという。
僕は楽しみでうきうきなこの気持ちを、みんなに知られないようにするので精一杯だった。
「今日は、純司の誕生日パーティー。勿論、これがメインイベントだ。しかし、全員それとなく知っているだろうが、後白河との戦いが一週間後に迫っている。そこで、騅と明には兄弟の内誰かがついてやり、後白河の顔、そして当家が一番頼りにしている後鳥羽家の顔を覚えさせてやってほしい。ただし注意してほしいのは、後白河に対し明らかな敵対行動や態度は取るな。政府には知らせてあるが、後鳥羽も勿論後白河も知らない秘密の情報だ。まぁそれを考慮すると――」
「お兄ちゃん、堅すぎ~。とりあえず、明に私がつくから。」
「あ、あぁ。では、俺が騅につこう。傑は純司の案内役を。」
「はーい。誤爆しないように気をつけまーす。」
「あのなぁ……誤爆も何も武器の持ち込みは禁止されている上に、当家の執事が厳正にチェックをするからな。」
と、詠飛兄さんは眉をピクピクと動かしひそめながら、傑兄さんを牽制した。
だが傑兄さんは適当に返事をして、部屋から出てしまった。
「全く。あれが俺の次に継ぐとは……。」
「堅すぎ~。考えすぎ~。よし、明! 大ホールにお手伝いに行こう?」
詠美姉さんは詠飛兄さんを軽くからかうと、明の手を取って部屋の出口へと歩いて行った。
「はい。」
明は何かを考えているような表情をしていたが、僕には何を考えているのかわからなかった。
そんな明が出て行く姿を見送っていると詠飛兄さんは、黒く分厚いA2ファイルを2冊机から取り出した。
「騅。お前から見て、右が後白河の人物表、左が後鳥羽だ。これをパーティーが始まる5分前までに読み、俺の部屋に返しに来い。写真も付いているから、わかりやすいと思う。」
「あ、ありがとうございます!」
僕は思い切り頭を下げて感謝の気持ちを伝えようとしたのだが、頭を下げた先には……
「イテッ!」
そう、詠飛兄さんの机があったのだった。
「はぁ……元気はよろしい。重いから気をつけて持っていきなさい。それに、ふりがなも付いているから。」
「はーい!」
僕は少し重い2冊のファイルを持って、自室まで戻った。
後醍醐家別棟 自室
後醍醐 騅
僕は自室に籠りパーティー開始5分前の16時55分まで、しっかりと目を通そうと決めた。
「まずは、敵からかな!」
と、僕は『後白河家 人物』と白いテープの上に、活字で書かれたファイルを開いた。
1ページ目は当主様である、後白河 憲淙のページであった。
おとし……? 御年か! 65歳って、かなりのおじいちゃんの筈なのに、髭も無いし、しわくちゃ感も無い。おまけに、髪の毛真っ黒でふさふさだし。趣味は盆栽。ここだけが、唯一のおじいちゃん感かな。血液型は、A型かぁ。じゃあ、細かそうだなぁ……。
と、しばらく見ていたけど今回のパーティーには出席しない、と書かれていたから、その先は読み飛ばしてしまった。
後白河は後醍醐よりも少ない4人兄弟。女の人は居ないみたい。後白河のお母さんは、数年前に出て行ったみたい。
あと、後白河の得意武器も書いてあったけど、薙刀って、何だろう?
返す時にでも詠飛兄さんに聞こう。
次は長男である、後白河翔が載っていた。
御年21歳。詠飛兄さんと同い年であったが、詠飛兄さんみたいな古臭い、何と言うか、武士っぽさも無く、長い茶髪のぼさぼさヘアーな上に、顔も大きく、決して整っているとは言えない遊んでいる印象を受けた。
「詠飛兄さんの方が、100倍かっこいいじゃん。当主様はかっこいいおじいちゃんなのに、何でこうなっちゃったのかなぁ。」
と、思わずつぶやく程であった。
次男の後白河 颯汰は、御年18歳。高校3年生。
長男とは打って変わって、メガネなんかかけちゃってるし、長い黒髪だけどさらさらしてそうな、真面目な印象を受けた。肌は長男と同じく、ベージュっぽい感じであった。
「でも、顔は長男に似てるかなぁ……。」
簡単に言うと、翔の真面目版って感じだった。
三男の後白河 紳稲は、御年15歳。高校1年生。
殺した人の数、1人……?リアルな数字……だなぁ。上の2人は、100人とか、50人とかだったのに。それとも、最近華々しくデビューでもしたのかな。
そんな紳稲は上の2人と比べられないくらいの整い様であったし、雪のように白い肌であった。
「これはパーティーでも目立つよね! えっと、趣味はBL(年上受け専門)? これは、どういう意味だろう……? よし、聞くことリストに書いておこう。」
僕は早速先ほどの薙刀と一緒にこの言葉も、A5サイズの聞くことリストに書いておいた。
メモをするならA5サイズだと教えてくれたのは、詠美姉さんなのだけどね。
最後は四男の後白河 信風は、御年13歳の中学1年生。
三男に似ていて、とてもモテそうな人だ。肌は浅黒く、髪型は坊主頭。殺した人の数は、0人。
鋭意精進中、と書かれているけど、これも聞くことリストに書いておこう。
趣味は、野球。巨人が好き、と書かれていたから、
「へぇ……大きい人が好きなんだ。」
と、目を見開きながら大きく頷いた。
後白河の人物を見終わったところで、次に載っていたのは、執事の数やメイドの数、お家の様子とか、周りのことであった。執事たちは常駐しておらず、20時になるとそれぞれの家に帰っていく、と書かれていた。
後醍醐との仲は、5段階中の3。後鳥羽との仲は、2。特に親しい家は無いという。
「う~ん……難しいから、ここらへんはいいや。って、もう16時30分!? 後鳥羽家のも見ないとだものね……。適当に顔だけ見ておこう!」
ということで、後白河のファイルを閉じ、後鳥羽家の方はパラパラと見るだけにした。
そしてついに16時50分になったので、僕は慌てて詠飛兄さんの部屋へと駆けていった。
後醍醐家本棟 詠飛兄さんの部屋
後醍醐 騅
ノックを3回して入ると、詠飛兄さんは時計を見やり、
「16時55分、丁度だ。」
と、笑顔で言った。
「はぁ……良かった! あの、詠飛兄さんに聞きたいことが、いくつかありまして……これ、聞くことリストです!」
と、息をきらしながらノートとファイルを机の上に置くと、一瞬だけ兄さんの顔が曇ったが僕は気にせず答えを待った。
するとBL以外のことは、辞書並みに丁寧に教えてくれた。
「あの……?」
僕が理由を訊こうとすると、詠飛兄さんは目を閉じた。
「これは知らない方がいいな……。いや、俺もよくわからないんだ。一時期詠美がそういう雑誌を買い込んでいたのだが……どちらにせよ、本人にも聞かないでくれ。」
詠飛兄さんはいつにも増して眉をひそめ、眉間にも皺が寄り過ぎなくらいに寄っていたので、僕は何も言えなかった。
そして詠飛兄さんに連れられ、大ホールへと向かっている。
そこで待ち受ける御三家の人間と僕はついに出会うこととなる……!
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